セイヨウミザクラ

セイヨウミザクラ（西洋実桜）

セイヨウミザクラ（Prunus avium）は、ヨーロッパ、北西アフリカ、西アジアに自生するサクラ属の植物です。果樹として知られるサクランボ（桜桃）の多くの品種は、この種に由来します。英語ではWild Cherryと呼ばれますが、これは野生のサクラ一般を指すこともあります。

植物としての特徴

セイヨウミザクラは落葉樹であり、樹高は15〜32メートルに達し、幹の直径は1.5メートルになることもあります。幼木は頂芽優勢の傾向が強く、幹はまっすぐ上に伸び、枝はきれいな円錐形になることが多いです。成長とともに、樹の上部は丸みを帯びた不規則な形状になります。

樹皮は紫がかった茶色で、幼木には焦茶色の皮目がはっきりと見られます。葉は互生し、長さ7〜14センチメートル、幅4〜7センチメートル。葉の表面は光沢のない緑色で、細かい綿毛が生えています。葉の周囲はギザギザで、先端は尖っています。葉柄は緑または赤っぽい色で、2〜5個の小さな蜜腺があります。秋にはオレンジ、ピンク、赤などに紅葉し、落葉します。

春になると、花と葉が同時に現れます。花は2〜6個が散房花序をなし、直径2.5〜3.5センチメートル。5枚のほぼ白い花びらと、黄色がかった雄蕊、そして子房（雌蕊）から構成されます。雌雄同株であり、ハチなどによって受粉します。

果実は直径2センチメートルの核果で、改良品種ではより大きくなります。夏に熟し、明るい赤色か黒紫色になります。実は食用可能で、甘く、いくらか渋みがあります。新鮮なものはやや苦いことも。果肉の中には、長さ8〜12ミリメートルの硬い種があります。多くの鳥や動物が熟した実を食べ、果肉だけを消化して種を排出しますが、齧歯類やシメなどの鳥は、種の硬い殻を割って中身も食べてしまいます。熟す前の実には青酸配糖体が含まれているため、わずかに毒性があります。

樹皮が傷つくと樹脂が出て、昆虫や菌への感染を防ぎます。

分類史

セイヨウミザクラの初期の分類はやや混乱していました。リンネは当初、セイヨウミザクラをCerasus racemosa hortensisと同じものと考えましたが、後に現在の学名Prunus aviumとして扱いました。Prunus aviumはラテン語で「鳥のサクラ」を意味します。

栽培と利用

果物として

セイヨウミザクラは数千年前から人類に利用されてきました。青銅器時代のヨーロッパでは、その種が発掘されています。サクランボの栽培品種の先祖はおもに2つあり、セイヨウミザクラはその一つです。日本の佐藤錦など、生食されるサクランボのほとんどはセイヨウミザクラです。世界の温暖な地域で広く栽培されており、栽培品種の数は非常に多いです。

鑑賞用として

セイヨウミザクラは、公園や庭木として鑑賞用にも育てられます。ヨーロッパでは、花弁が二重になった'Plena'種がよく利用されます。

木材として

堅く、赤みがかった木材は、旋盤加工して家具や楽器の材料としても使用されます。

その他

樹皮から得られる樹脂は香料やチューインガムの代用として、種の核は医薬として利用されます。また、緑色の染料を抽出することも可能です。

利用の歴史

古代ローマの博物学者プリニウスは、スモモとサクランボを区別して分類しました。プリニウスは、ルクッルスがミトリダテス6世と戦った際に、桜をイタリアに持ち帰ったと記述しています。しかし、考古学的な発掘調査により、青銅器時代やローマ時代のヨーロッパ各地の遺跡からサクラの種が見つかっており、プリニウスの記述との矛盾が指摘されています。現在では、ルクッルスが持ち帰ったのはセイヨウミザクラの一栽培品種であったと考えられています。

スイスの植物学者アルフォンス・ド・カンドルは、プリニウスの研究について「これは間違いである」と断言し、ルクッルス以前にもイタリアにウワミズザクラがあったことを強調しました。

セイヨウミザクラの栽培品種がどこで作られたのかは、まだはっきりしていません。現在の栽培品種と野生種では実の大きさが異なり、栽培品種は直径2〜3センチメートルにもなります。

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