セル・アウト

『ザ・フー・セル・アウト』（The Who Sell Out）は、1967年にイギリスのロックバンド、ザ・フーによって発表された3作目のオリジナルアルバムです。トラック・レコード（イギリス）とデッカ・レコード（アメリカ）から発売され、プロデューサーはキット・ランバートが務めました。

概要

このアルバムは、ザ・フー初のコンセプト・アルバムとして知られています。曲間に架空のラジオ局のジングルやコマーシャルソングを挟み込むことで、アルバム全体が一つのラジオ番組のように構成されています。1967年当時のサイケデリック・ムーブメントの影響を受け、ポップでカラフルなサウンドが特徴です。また、ザ・フーのスタジオアルバムとしては初めて全曲オリジナル曲で構成され、モノラル版が制作された最後の作品でもあります。イギリスとアメリカでタイトル、収録曲、ジャケットデザインが統一されたのも本作が初となります。ただし、アメリカ盤では契約上の問題から「メダック」が「Spotted Henry」に変更されましたが、再発時にはイギリス盤と同じ「メダック」に戻されました。

制作背景

レコーディングは、バンド初の全米ツアーと並行して、1967年5月から11月にかけて行われました。アルバム全体にストーリー性があるわけではありませんが、この試みは後のロック・オペラ・アルバム『トミー』（1969年）に活かされています。本作に収録された「ラエル」は、前作『ア・クイック・ワン』に収録された「クイック・ワン」に続くミニ・オペラ作品であり、この曲の一節は『トミー』の「スパークス」にも登場します。また、「アルメニアの空」は、ザ・フーのオリジナル曲で唯一、外部ミュージシャンによって作曲された楽曲です。作者のジョン・“スピーディ”・キーンは、ピート・タウンゼントの友人で、後にサンダークラップ・ニューマンを結成し、「サムシング・イン・ジ・エアー」で全英チャート1位を獲得しています。

リリースと評価

本作からは、「恋のマジック・アイ」が先行シングルとしてリリースされ、アメリカでグループ最高の9位を記録するヒットとなりました（全英10位）。しかし、アルバム自体はイギリスで13位に留まり、ザ・フーのスタジオアルバムとしては最低のチャート順位となりました。アメリカでは48位という結果に終わっています。

しかし、その音楽的革新性は高く評価されており、『ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500』では113位にランクインしています。

コンセプト

アルバムをラジオ局に見立てるというコンセプトは、ザ・フーが青春時代に親しんだ海賊ラジオ局への敬意から生まれました。1960年代のイギリスでは、ロックソングを自由に流せるのは海賊ラジオ局だけでした。しかし、1967年8月に海上放送法案が可決され、ラジオ・ロンドンなどの海賊ラジオ局は閉鎖されることになりました。その後、BBCがポップス専用局を開局し、海賊局のDJを集めてポップミュージックを流す時間を増やしました。

このコンセプトは、ピート・タウンゼントとマネージャーのクリス・スタンプによって考案されました。

アートワーク

アルバムの内容を反映して、ジャケットは広告のようなデザインになっています。表側はオドローノ社の消臭剤を塗るタウンゼント、裏側はハインツ社のベイクド・ビーンズの風呂に浸かるロジャー・ダルトリーの写真が使用されています。また、キース・ムーンがメダック社の塗り薬を顔に塗る写真や、ジョン・エントウィッスルがターザンのような格好で女性と肩を組む写真も使用されています。これらの企業名は、アルバム収録曲のタイトルにも使用されています。初回版にはサイケデリックなデザインのポスターが封入されていました。

リイシュー

1973年には、前作『ア・クイック・ワン』と2枚組で再発売されました。1988年に初CD化され、1995年にはリマスター／リミックスCDがリリースされました。2009年にはデラックス・エディションがリリースされ、ステレオ、モノラル両版の再リマスターに加え、未発表テイクが収録されました。2012年には日本限定で、ボーナストラックを除いたステレオ、モノラル両版の最新リマスター版がSACDで発表されました。

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