タアン民族解放軍

タアン民族解放軍（TNLA）

タアン民族解放軍（TNLA）は、ミャンマーにおける主要な反政府武装組織の一つであり、パラウン州解放戦線（PSLF）の軍事部門を務めている。ビルマ語ではタアング・アミョータ・ルッミョウッイェイ・タプマドー、タアン語ではタムッナーングプンロードゥ・クリーウースタアングと称される。略称はTNLA。

活動初期には、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）やアラカン軍（AA）、そしてカチン独立軍（KIA）の一部と共に2016年に北部同盟を結成した。その後、北部同盟からKIAを除いた三勢力で、2019年に改めて三兄弟同盟を結成した。

名称について

TNLAという軍事部門の名称には、タアン族自身が用いるエンドニムである「タアン」が使用されている。これは、民族集団としてのアイデンティティを再構築しようとする動きの一環である。ミャンマー政府が2008年憲法でマントン郡区とナムサン郡区に設けたパラウン自治区は、外部から規定された狭い枠組みに過ぎず、タアン民族の土地はより広範であるべきだという認識から、「タアン」の呼称を採用するに至った。

一方、政治部門であるパラウン州解放戦線（PSLF）には、外部呼称であるエクソニムの「パラウン」が引き続き用いられている。これは、抵抗運動の歴史的な継続性を強調するためだとされている。

歴史

武装闘争の始まり

タアン族は伝統的にナムサンのツァオパー（首長）の統治下にあり、植民地期や1948年から1962年の民主主義時代には限定的な自治権を有していた。しかし、1962年のネ・ウィン将軍によるクーデターを契機に、タアン族の武装闘争が始まった。

1963年1月にはシャン州独立軍（SSIA）の下でパラウン民族軍（PNF）が結成され、シャン州軍に合流した。PNFは後に独立・分裂を経て、1976年にパラウン州解放機構/軍（PSLO/A）と改称した。PSLO/Aは民族民主戦線（NDF）に加盟し、シャン州進歩党（SSPP）やカチン独立機構（KIO）との協力関係を通じてゲリラ組織として発展した。最大時にはナムカム、ラーショー、ピンウールウィン間の山地を支配し、約1,000人の兵力を擁した。

1986年にはPSLOがパラウン州解放党（PSLP）に改名し、NDF北部管区としてCPBとも連携した軍事作戦を行った。

停戦とPSLAの降伏

1991年初頭、軍事政権はPSLP（旧PSLO/A）を除くシャン州北部の武装勢力と停戦協定を結んだ。軍事政権はタアン族住民とPSLPの連絡を妨害し、茶の収穫期に村を強制移転させて経済的に追い詰めた。武器供給源も断たれた状況下で、タアン族コミュニティは存続の危機を感じ、PSLPに停戦を請願した。その結果、PSLPは1991年4月21日にミャンマー軍と停戦し、シャン州第7特区としてその支配領域を認められた。

停戦期間中もPSLPは武器を保持し事業を展開したが、ミャンマー軍は支配領域内に多数の基地を設置し兵士を送り込んだ。マントンにあるPSLP本部でさえ、ミャンマー軍の兵力はPSLPを上回る状況であった。また、ミャンマー軍兵士によるタアン族住民からの金品強奪が横行するなど、住民の不満は高まった。

PSLFの結成

この停戦とミャンマー軍の行動に不満を抱いたPSLPの一部メンバーは、カレン民族同盟本部のあるマナプロウでパラウン州解放戦線（PSLF）を立ち上げた。PSLFはNDFやビルマ民主同盟（DAB）といった民主派勢力と緊密な関係を築き、タイ・ミャンマー国境地域でワ民族軍などと共同作戦を行った。

PSLAの解体とTNLAの誕生

2005年4月29日、PSLP/PSLAはミャンマー軍からの強い圧力により武装解除・降伏を余儀なくされた。大衆支持の低下や財政難に加え、抵抗すれば殲滅されるという脅迫もあり、約300～500人程度の兵力しか持たないPSLAは降伏を選んだ。降伏式典で並べられた武器は半数しか機能しておらず、政府が用意した支援物資も写真撮影後すぐに回収されるなど、実態を伴わないものであった。軍事政権は旧PSLA兵士らで民兵組織を結成させたが、限定的な自治権と経済的利権しか与えず、若者は反乱鎮圧への参加に反発し過激化していった。

こうした状況下で、PSLFは新たな軍事部門の創設を進め、2007年にはタアン民族解放軍（TNLA）の結成準備が始まり、2009年10月11日に公表された。結成当初のTNLAはわずか42人の兵士と22丁の武器しか持たなかった。

活動と紛争

TNLAはPSLA時代からの同盟であるKIOから資金や訓練などの支援を受け、2011年後半にタアン地域への再浸透を開始した。2012年1月までにタアン地域に根付き、同年8月18日にミャンマー軍との本格的な戦闘を開始した。

当初小規模だったTNLAに対し、ミャンマー軍は武装解除を繰り返し要求し、軍事的勝利を目指したが、TNLAは勢力を拡大し続け、2013年には約500人規模となった。特に、ミャンマー軍傘下にあったタアン族民兵組織を吸収し、その武器を再利用することで急速な拡大を遂げた。

TNLAは他の主要武装勢力と共に全国停戦合意（NCA）の交渉から除外されたが、これは武装解除という事実上の降伏条件を受け入れなかったためである。

シャン州軍 (南)との衝突

2015年以降、シャン州軍 (南)（SSA-S）がシャン州北部、特にタアン族居住地域への進出を強め、TNLAと激しい衝突が発生した。SSA-Sはタアン族集落内に基地を設営し、住民の行動や通信を厳しく制限した。TNLAはこの紛争を、ミャンマー軍がSSA-Sを支援する代理戦争と見なした。2018年からはTNLAの同盟であるシャン州軍 (北)（SSA-N）も対SSA-S作戦に参加し、2021年以降はTNLA、SSA-N、ワ州連合軍（UWSA）の連合軍がSSA-Sに対する攻勢をかけ、2022年1月にTNLAはSSA-Sに対する勝利を宣言した。

ムセ攻勢とUWSAへの接近

2016年11月、TNLAは北部同盟の一員としてムセ攻勢に参加し、国境警察やミャンマー陸軍の拠点を襲撃した。

2018年頃から、TNLAは古くからの同盟であるKIAよりもUWSAとの関係を重視するようになった。UWSAが主導する連邦政治交渉協議委員会（FPNCC）に加盟し、ワ州のパンサンに連絡事務所を開設するなど、連携を強化した。

三兄弟同盟と1027作戦

2019年6月、TNLAはMNDAA、AAと共に三兄弟同盟を結成し、ミャンマー軍に対する共同攻勢を開始した。2023年10月27日には、三兄弟同盟が「1027作戦」と称する大規模な総攻撃を開始し、ミャンマー軍の主要拠点や中国へ通じる主要道路を占拠することで、TNLAの支配地域は大きく拡大した。ミャンマー軍による化学兵器使用の疑惑も報じられた。

中国の仲介により、三兄弟同盟はミャンマー軍事政権との間で和平交渉を行い、2024年1月には一時停戦に合意した。しかし、同年6月にTNLAは停戦協定を破棄し、作戦第2段階を開始、ナウンチョーやチャウメー、モーゴッといった戦略的に重要な拠点を次々と制圧した。この急速な版図拡大は、他の同盟組織との間で摩擦を引き起こしているとの指摘もある。2024年11月には再び和平交渉の意向を示し、2025年には中国の仲介で軍事政権と複数回協議を行ったが、タアン州の承認要求と軍事政権側の既存枠組みへの固執、TNLAが制圧した地域からの撤退要求を拒否したことなどから、妥協には至っていない。

パンセー民兵との衝突

TNLAは、薬物汚染の根源と見なすパンセー民兵（コロンリショー族の民兵組織）と2012年以降、ケシ栽培地域を巡って衝突を繰り返している。TNLAはパンセー民兵による薬物生産・取引を非難し、パンセー地域の住民を逮捕・身代金要求する事例も発生した。一方、パンセー側はTNLAの支配拡大の意図を指摘するなど、両者の対立はタアン族とコロンリショー族間の民族間不和をもたらしている。TNLAはパンセー民兵の資金源とされるカジノや建設中のホテルなども攻撃対象としている。

組織構成

TNLAは軍司令部を頂点とし、情報通信部隊、7個の地域別・機動旅団、本部防衛大隊、コマンドー部隊、重火器部隊、民兵旅団、地域防衛隊（LDFs）、女性大隊、軍法事務局、訓練学校、士官学校などで構成されている。

7個旅団はそれぞれ5個大隊から成り、第1旅団から第6旅団までは特定の地域に配置されているのに対し、第7旅団は機動部隊として運用される。

指導部は中央執行委員会（11名）と中央委員会（27名）から成る。中央執行委員会には女性はいないが、中央委員会には2名の女性少佐が含まれている。

反麻薬政策

PSLA降伏後、タアン族地域は深刻な薬物汚染に見舞われ、パンセー民兵によるケシ栽培拡大、茶産業の衰退、住民の薬物労働者化、多数の薬物中毒者発生といった問題が深刻化した。TNLAは薬物をタアン民族存続の脅威と捉え、2012年に薬物撲滅のための5ヶ年計画を策定した。

TNLAは麻薬中毒者を逮捕し、「麻薬撲滅センター」で「更生」や「リハビリ」と称する規律訓練や清掃活動を行わせる。一部は強制的に徴兵されるが、これは麻薬のない社会を築くための「身体・世帯・コミュニティの変革」という意図に基づくものと見られている。

また、反麻薬政策の一環としてケシ農場やヘロイン工場を破壊し、密輸業者を逮捕・押収品を焼却している。2024年にはナムカム郡区で大規模なケシ畑破壊を行った。

しかし一方で、麻薬の前駆物質密輸や取引はTNLAにとって重要な収入源であり、高額な税を課しているとの報告もある。押収した麻薬が再販売されるケースも指摘されており、アヘン農家の作物代替支援には繋がっていないとの批判もある。

徴兵制度

TNLAは「タアンランド」という広範な領域概念を空間的に構築する意図も込めて、タアン族を対象とした厳格な徴兵制度を導入している。原則として一世帯から一人（一人っ子を除く）が徴兵される。非タアン族や薬物中毒者からの徴兵は行わない（中毒者は「更生」のみ）。

2024年には軍事政権の徴兵制施行を受け、新たな徴兵制を発表した。16歳以上の男子を2人以上有する世帯に兵役義務を課し、男子の数に応じて免除条件（出家、病気・障害）を設けた。さらに、3人以上の女子を有する世帯からは少なくとも1人の女子を徴兵対象とした（民間組織中央委員などの役職者は免除）。

徴兵を逃れるため、子どもを都市部の僧院に入れるケースが多発している。TNLA指導部は徴兵の不人気さを認めつつも、タアン族の発展には強い軍隊が必要だと政策を擁護している。過去には民間人の強制徴兵（拉致）も報告されており、2025年にはモーゴッでの市防衛隊結成に向けた徴兵計画も報じられている。

人権侵害

パンセー地域では、TNLAによるコロンリショー族住民の逮捕・拘束が複数報告されている。2019年には村人18人が逮捕され、身代金が要求された事例があり、支払った者は解放されたが、払えなかった者は拘束が続いたとされる。TNLAはケシ取引関与を逮捕理由とするが、家族側は関与を否定し、逮捕者への暴行や拷問、強制労働を訴えた。解放された住民の体にも拷問痕が見られたとの指摘がある。2020年にもケシ栽培を巡る住民逮捕が発生しており、TNLAとコロンリショー族間の緊張が続いている。

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