タッチストン

タッチストン：恵まれない体格から生まれたサラブレッドの英雄

タッチストン(Touchstone、1831年 - 1861年)は、19世紀のイギリス競馬史に燦然と輝く競走馬です。その名は、試金石を意味し、まさに彼の競走馬としての成功と種牡馬としての偉業を象徴するかのようです。決して華麗な容姿や体格に恵まれた馬ではありませんでしたが、類まれな才能と驚異的な競走成績、そして卓越した遺伝子によって、イギリス競馬界に不滅の足跡を残しました。

輝かぬ出自と意外な才能

タッチストンの父であるカメルは、体格も競走成績も平凡なサラブレッドでした。しかし、その父ホエールボーンは、現在のサラブレッドの主流父系につながるサーハーキュリーズを産んだ馬でもあり、血統的にも重要な位置を占めています。一方、母バンターは、のちに14号族と呼ばれる有力な牝系に属しており、その血統背景はタッチストンの潜在能力を暗示していました。兄弟には、セントレジャーステークス優勝馬のランスロットもおり、優れた競走能力は家族の中に受け継がれていたのです。

初代ウェストミンスター侯爵によって生産されたタッチストンは、父カメル譲りの不格好な体格で、体高は15ハンド（約152.4センチメートル）と小柄でした。その容姿から、競走馬としては見向きもされず、タダでさえもらってくれる人がいなかったと言われています。しかし、3歳秋のシーズン、彼は驚くべき才能を開花させました。当時、エプソムダービーよりも権威が高かったセントレジャーステークスに、41倍という低評価で出走したタッチストンは、並み居る強豪を相手に4馬身差という圧勝劇を見せ、関係者を驚かせました。

重賞競走での活躍と類まれなスタミナ

3歳時の勝利は、タッチストンの偉大なる競走馬としてのキャリアの始まりにすぎませんでした。古馬になってからも、彼はその類まれなスタミナと勝負強さを発揮し、ドンカスターカップを2連覇（1835年、1836年）、アスコットゴールドカップも2連覇（1836年、1837年）を達成するなど、数々の重賞競走を制覇しました。生涯で少なくとも21戦に出走し、16勝という輝かしい成績を残しています。興味深いことに、調教ではその能力をなかなか発揮せず、本番のレースでも短い距離では本気を出すことがなかったと言われています。彼の真価は、長距離レースにあったと言えるでしょう。

種牡馬としての成功とサラブレッドへの多大なる貢献

競走馬を引退したタッチストンは、初代ウェストミンスター侯爵のもとで種牡馬として供用されました。そして、彼は競走馬としての成功をはるかに凌駕する偉業を成し遂げます。1842年、1843年、1848年、1855年の4度に渡りイギリスリーディングサイアーの栄冠に輝き、サラブレッドの歴史に大きな影響を与えたのです。

彼の産駒には、エプソムダービー優勝馬でリーディングサイアー3回獲得のオーランド、エプソムダービーと2000ギニー優勝馬のコザーストン、エプソムダービーとセントレジャーステークス優勝馬のサープライス、セントレジャーステークス優勝馬でリーディングサイアー2回獲得のニューミンスターなど、数々の名馬が名を連ねています。これらの産駒たちもまた、種牡馬として成功し、その血統は現代まで受け継がれています。

ヴュイエ大佐の研究によると、19世紀のサラブレッドにおけるタッチストンの影響力は、ガロピンとセントサイモン親子に次ぐものだったとされています。生涯で343頭の産駒を輩出し、それらが合計で738勝を挙げた彼の功績は、現代のサラブレッドにも色濃く反映されていると言えるでしょう。

タッチストンは、決して恵まれた体格や環境に恵まれた馬ではありませんでした。しかし、彼の類まれな才能と努力、そして優れた血統が融合し、競走馬、そして種牡馬として、イギリス競馬史に不滅の功績を残したのです。彼の物語は、才能を如何に開花させるか、そして如何に未来へ繋いでいくかということを教えてくれる、まさに試金石と言えるでしょう。

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