タハリール広場

カイロの心臓部、タハリール広場：歴史と変遷の舞台

タハリール広場は、エジプトの首都カイロ中心部に位置する、歴史と政治の激動を象徴する広場です。アラビア語で「解放」を意味するその名は、幾度となく繰り返されたエジプト革命の歴史を物語っています。1854年、ムハンマド・アリー朝時代のイスマーイール・パシャによって、パリのエトワール広場をモデルに建設され、当初はイスマーイーリーヤ広場と呼ばれていました。

フランス様式の都市計画とイギリス統治時代

広場の建設は、パリ改造計画を手がけたジョルジュ・オスマンの影響を受けた大規模なカイロ都市計画の一環でした。ヨーロッパ風の建築物が立ち並ぶなか、エトワール広場を模したイスマーイーリーヤ広場は、近代化を目指すエジプトの姿を象徴していました。しかし、1882年のイギリスによるエジプト占領により、広場はイギリス軍の兵舎となり、植民地支配の中心地として機能することとなります。第一次世界大戦時にはイギリスによる戒厳令下の拠点となり、エジプトの独立運動の高まりとともに、反英感情の象徴的な場所にもなっていきました。1919年のエジプト革命では大規模な抗議活動の舞台となり、「解放」を意味するタハリールという呼び名が浸透していきます。

ナーセル政権と革命のシンボル

1952年のエジプト革命（七月革命）後、イスマーイーリーヤ広場は「タハリール広場」と改名されました。ガマール・アブドゥル＝ナーセル政権下では、アラブ連盟本部や博物館、与党本部などが建設され、ナーセル政権の象徴的な場所となりました。厳重な監視下に置かれながらも、政権支持集会や重要な人物の葬儀なども行われるなど、政治の中心地としての役割を果たしていました。しかし、その一方で、学生デモや食料暴動など、反政府運動の舞台となることも度々ありました。

ムバーラク政権と2011年エジプト革命

ホスニー・ムバーラク政権時代も、タハリール広場は幾度となく抗議活動の舞台となりました。イラク戦争への反戦運動や小規模なデモが繰り返されるなか、2010年末のチュニジア革命を機に、2011年1月25日、ムバーラク大統領の辞任を求める大規模な抗議運動がタハリール広場で勃発しました。この「2011年エジプト革命」において、タハリール広場は革命の象徴となり、世界中の注目を集めました。数万人のデモ隊が広場を占拠し、ムバーラク大統領の辞任まで18日間にわたって抗議活動を継続しました。この間、SNSを介して世界中に広がる情報と、広場で繰り広げられる抗議活動の様子は、革命の展開を大きく左右する力となりました。

革命後のタハリール広場とシーシー政権

ムバーラク大統領の辞任後も、タハリール広場は民主化への期待と軍部との対立、そしてムスリム同胞団との葛藤の舞台となりました。ムハンマド・ムルシー大統領の就任後も、抗議活動は断続的に続き、2013年にはムルシー大統領を支持する勢力と反対する勢力が対立する事態に発展しました。シーシー政権下では、広場のグラフィティは消され、抗議活動は厳しく規制されるようになりました。2019年には、シーシー政権への抗議デモが再び発生するなど、タハリール広場は現在もエジプトの政治情勢を反映する重要な場所であり続けています。

改修と歴史的建造物

近年、タハリール広場では大規模な改修工事が行われ、約3500年前のオベリスクやカルナック神殿にあったスフィンクスなどが設置されました。しかし、歴史的建造物の移設については、考古学者などから批判の声も上がっています。

タハリール広場の意義

タハリール広場は、単なる広場にとどまらず、エジプトの歴史と政治、そして国民の意志を反映する象徴的な場所です。建設から現在まで、幾多の変遷を経てきたタハリール広場は、今後もエジプトの未来を語る上で重要な舞台であり続けるでしょう。様々な文献や記録から、この歴史的な広場の意義を深く理解することが重要です。

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