ダウン・バイ・ザ・サリー・ガーデンズ

ダウン・バイ・ザ・サリー・ガーデンズ（Down By The Salley Gardens）

「ダウン・バイ・ザ・サリー・ガーデンズ」は、アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツが、近代に流行した英語のバラッドの一部を基に創作した8行の詩です。1889年に彼の詩集に収録され、その後、この詩に曲がつけられて歌われるようになり、広く知られるようになりました。日本では「サリー・ガーデン」「サリー・ガーデンズ」などと呼ばれることもあります。

概説

イェイツは、アイルランドのスライゴ地方で農婦が歌っていた、うろ覚えの3行の歌の断片から着想を得て、この詩を再構成しました。しかし、実際にはその歌は「古いアイルランドの詩行」ではなく、アングロ・アイリッシュ文化の中で書かれた近代のバラッドだったことがわかっています。当初、この詩は「歌い直された古い歌」と題されていました。

「サリー」はゲール語で柳を意味する「saileach」に由来し、「サリー・ガーデン」は柳の庭を指します。柳の枝はかつて藁葺き屋根に使われていたため、アイルランドでは村の近くに小さな柳の林がよく見られ、そこは若い恋人たちの逢瀬の場でもありました。1909年、作曲家ハーバート・ヒューズが、イェイツが基にした歌とは別の旋律で曲を付けました。この曲がアイルランドの伝統歌謡として扱われるようになり、民謡のレパートリーに加わって広く歌い継がれるうちに、イェイツの名前は次第に忘れられ、アイルランド民謡の代表的な曲の一つとして認識されるようになりました。

詩の内容

以下がイェイツの詩とその日本語訳です。

原文

Down by the salley gardens my love and I did meet;
She passed the salley gardens with little snow-white feet.
She bid me take love easy, as the leaves grow on the tree;
But I, being young and foolish, with her did not agree.

In a field by the river my love and I did stand,
And on my leaning shoulder she laid her snow-white hand.
She bid me take life easy, as the grass grows on the weirs;
But I was young and foolish, and now I am full of tears.

日本語訳

柳の庭を下ったところで愛する人と逢った
彼女は白雪のような足で柳の庭を抜けて行った
彼女は僕に言った
恋は木の葉が茂るみたいに気楽に
でも僕は若くて愚かで、肯けなかった

川のほとりの原っぱに愛する人と立ち
彼女は白雪のような手を僕の肩に掛けた
彼女は僕に言った
人生は堰に草の茂るみたいに気楽に
でも僕は若くて愚かだった、そして今は涙で一杯だ

この詩は、若き日の恋の思い出と、その時の未熟さを後悔する気持ちを描いています。

元になった曲

イェイツが耳にした歌は、「You Rambling Boys of Pleasure」である可能性が高いとされています。この曲は、若い男が恋人の愛に満足できず、やがて彼女が心変わりするという、恋愛の終末を描いた、より長く複雑な歌詞を持っています。

曲の誕生

1909年、ハーバート・ヒューズが、アイルランドの古い曲「モーン海岸の乙女」の旋律を使い、この詩に曲をつけました。この曲は、アイルランドのテナー歌手ジョン・マコーマクが歌い、広く知られるようになりました。ヒューズの曲は、多くの人に親しまれ、この詩に付けられた曲として最も有名です。イェイツ自身も、1935年にこの歌がアイルランド自由国軍の行進曲として演奏されているのを目撃しており、当時すでにアイルランドの伝統的な民謡として認識されていたことがわかります。

また、1990年代には、北アイルランドのバンド「タマリン」が、アイルランド語訳の歌詞でこの曲を歌い、現代におけるアイルランド性探求の試みとしても注目されました。

その他の作曲家

20世紀前半、芸術音楽においても「民族的」なものへの関心が高まり、多くの作曲家がこの詩に曲をつけました。特にイギリスでは、レベッカ・クラーク、アイヴァー・ガーニー、ベンジャミン・ブリテンなどが、それぞれ独自の解釈で作曲・編曲を行っています。

録音

この曲は、多くの歌手やグループによって歌われています。以下に著名な録音をいくつか紹介します。

クラナド：ライブアルバムに英語で収録。
タマリン：イェイツの詩を曲に載せたコレクションにアイルランド語で収録。
アリス・クリストフェリス：ベンジャミン・ブリテン編曲版を収録。
オーラ・ファロン（ケルティック・ウーマン）：ソロCDに収録。
ジェームズ・ゴールウェイ：インストルメンタル。
イム・ヒョンジュ：アルバムに英語で収録。
イェール大学合唱団ウィッフェンプーフス：ジョン・ケリー編曲版を収録。
アンサンブル・プラネタ：デビュー・アルバムに収録。
AZUMA HITOMI：アニメ『フラクタル』エンディングテーマ。
ロリーナ・マッケニット：アルバムに収録。
谷山浩子：日本語詞をつけ「家族の風景」として歌唱。

参考文献

金子光晴, 尾島庄太郎 著、野中涼 編『イェイツの詩を読む』思潮社、2000年。
東京大学イェイツ研究会, 中尾まさみ 監修「W.B. イェイツとアイルランド : 作品解説・年表・参考図書 : 東京大学駒場博物館特別展示 : トリニティ・カレッジ・ダブリン=東京大学学術協定締結記念」『展覧会カタログ(出品目録)』、東京大学教養学部駒場博物館、2012年5月。

関連項目

Down in the Willow Garden

外部リンク

* Sheet music at CPDL

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