ダニエル・サラゴサ

メキシコが生んだ不屈のサウスポー、ダニエル・サラゴサ（Daniel Zaragoza）は、1957年 12月11日にメキシコシティで生まれたプロボクサーです。WBC世界バンタム級とWBC世界スーパーバンタム級の二つの階級で世界王座を獲得し、特にスーパーバンタム級では三度にわたり世界の頂点に君臨しました。

アマチュア時代とプロ転向

ボクシングキャリアの始まりはアマチュアから。1980年にはメキシコ代表としてモスクワオリンピックに出場し、バンタム級で準々決勝まで駒を進めました。当時の彼はボクサーとしてではなく、弁護士を目指して学業に励んでいましたが、メキシコ代表チームの監督であった名伯楽ナチョ・ベリスタインの誘いをきっかけに人生の方向転換を決意。プロボクサーの道を歩み始めました。

プロキャリアの黎明期と最初の世界王座

1980年10月17日にプロデビューを果たしたサラゴサは、順調にキャリアを重ね、プロ30戦目となる1985年5月4日にWBC世界バンタム級王座決定戦に挑みました。対戦相手はフレディ・ジャクソン（アメリカ合衆国）。この試合は7ラウンドに相手の頭突きによる反則失格という形で決着し、サラゴサは自身初の世界王座を獲得しました。しかし、その栄光は長くは続きませんでした。同年8月9日の初防衛戦でミゲール・ロラ（コロンビア）と対戦し、0-3の判定で敗れて王座から陥落。短命に終わった最初の世界王座経験となりました。その後、1986年4月にはIBF世界バンタム級王者（当時）のジェフ・フェネック（オーストラリア）とノンタイトル戦で対戦しましたが、判定負けを喫しています。

階級アップとスーパーバンタム級での躍進

バンタム級での挫折を乗り越え、サラゴサは階級をスーパーバンタム級に上げました。そして1988年2月29日、WBC世界スーパーバンタム級王座決定戦で同じメキシコの伝説的なボクサー、カルロス・サラテと対戦。この注目の一戦でサラゴサは10ラウンドTKO勝利を収め、見事に2階級制覇を達成しました。このスーパーバンタム級王座では、李承勲（大韓民国）、バレリオ・ナチ（イタリア）、ポール・バンキ（アメリカ合衆国）、フランキー・デュアルテ（アメリカ合衆国）、朴讃栄（大韓民国）といった強豪挑戦者を退け、5度の防衛に成功。この階級での地位を確立しました。しかし、6度目の防衛戦となった1990年4月23日のポール・バンキとの再戦で、9ラウンドKO負けを喫し、再び王座を手放すこととなりました。

日本での戦いと不屈の返り咲き

王座陥落後もサラゴサは諦めませんでした。1991年6月14日、日本の名古屋市総合体育館でWBC世界スーパーバンタム級王者となっていた畑中清詞（日本／松田ジム）に挑戦。アウェーでのタフな戦いとなりましたが、2-1の判定で勝利を掴み取り、失った王座を見事に奪還しました。この2期目の王座では、因縁の相手ポール・バンキとのラバーマッチ（通算3度目の対戦）を3-0の判定で制し、2度目の防衛に成功しました。しかし、1992年3月20日の3度目の防衛戦でティリー・ヤコブ（フランス）に判定負けを喫し、またしても王座から陥落しました。

その後、サラゴサは再び世界の頂点を目指し、トレイシー・ハリス・パターソン（アメリカ合衆国）やエクトール・サンチェス（ドミニカ共和国）といった王者たちに挑戦を続けましたが、ドローや敗北となり、あと一歩で王座奪還は叶いませんでした。

38歳での奇跡と伝説的な防衛ロード

しかし、サラゴサの不屈の精神は衰えませんでした。1995年11月6日、38歳という年齢でエクトール・サンチェスとの再戦に挑みます。この試合を2-1の僅差判定で勝利し、なんと3度目となるWBC世界スーパーバンタム級王座獲得という偉業を成し遂げました。これはベテラン選手の底力を見せつける劇的な戴冠でした。

3期目の王座では、特に日本でも馴染みの深い辰吉丈一郎（日本／大阪帝拳ジム）と二度対戦しています。1996年3月3日、横浜アリーナで初めて行われたボクシング興行で辰吉と対戦し、11ラウンドTKO勝利で初防衛に成功。さらに、1997年4月14日の再戦でも3-0の判定勝利を収め、4度目の防衛を果たしました。この他、原田剛志（日本／ハラダボクシングジム）を7回TKO、ウェイン・マッカラー（北アイルランド）を判定で退け、30代後半、40歳が目前に迫る中でも世界のトップレベルで戦い続けました。

キャリアの終焉と引退後

40歳を目前にした1997年9月6日、5度目の防衛戦で当時無敗の新鋭エリック・モラレス（メキシコ）を挑戦者に迎えました。新旧交代をかけた一戦は、中盤まで互角の激しい打ち合いとなりましたが、最終的に11ラウンドにモラレスの猛攻の前に倒れ、KO負けを喫しました。この試合が、ダニエル・サラゴサの現役最後のリングとなりました。

現役引退後は、その豊富な経験を活かしてトレーナーに転身。後進の育成に力を注いでいます。2008年からは、世界的な強豪ボクサーであるラファエル・マルケスのトレーナーとして、彼の持ち味である攻撃力とスピードを維持しながら、ディフェンス技術の向上にも貢献しました。

サウスポー特有のトリッキーなボクシングに加え、打ち合いも厭わないタフネスを兼ね備えたダニエル・サラゴサ。特に38歳での世界王座返り咲きと、40歳近くまで世界の第一線で戦い続けたキャリアは、ボクシング史において特筆されるべき功績と言えるでしょう。

獲得タイトル

WBC世界スーパーバンタム級王座（合計11度防衛）
WBC世界バンタム級王座（防衛0度）
メキシコバンタム級王座（10度防衛）
NABF北米スーパーバンタム級王座（2度防衛）

もう一度検索