ダミアン神父

ダミアン神父：モロカイ島の聖者

ダミアン神父（1840-1889）は、ベルギー出身のイエズス・マリアの聖心会の宣教師として、ハワイ王国で生涯を捧げた聖人です。本名はヨゼフ・デ・ブーステル。修道名であるダミアンの名で広く知られています。

生い立ちとハワイへの渡航

ベルギーの農家に生まれたダミアンは、兄姉の影響を受け、1859年に聖心会に入会。ルーヴェン・カトリック大学で神学を修めた後、兄の急病により、自身もハワイへの派遣を志願し、1864年にホノルルに到着しました。司祭叙階を受け、各地で布教活動を行いました。

モロカイ島での献身

8年間の布教活動の後、ダミアンはハンセン病患者が隔離されているモロカイ島のカラウパパの存在を知ります。当時、患者は社会から隔離され、劣悪な環境で放置されていました。ダミアンは自らの意思でモロカイ島へ赴き、ハンセン病患者への奉仕を開始しました。

彼は患者の生活環境改善に尽力しました。住居の整備、医療体制の改善、学校やバンドの設立など、様々な活動を通じて患者の生活を向上させました。この献身的な活動は世間の注目を集め、「モロカイの英雄」と呼ばれ、支援も集まりましたが、ダミアンと教会関係者との間にはしばしば摩擦も生じました。

ダミアンの献身は、患者の心を動かし、信頼関係を築きました。しかし、彼はその深い思いやりゆえ、患者との距離感に苦悩し、やがて感染の危険を顧みず、患者の身体に触れるようになりました。

ハンセン病発病と最期

1884年、ダミアン自身もハンセン病を発症します。ドイツ人医師の診断により、ハンセン病であることが確定されました。彼は一度、日本人漢方医、後藤昌直の治療を受け、症状が一時的に改善しましたが、病状は悪化し、1889年にモロカイ島で亡くなりました。彼の最期には、多くのシスターや協力者、患者たちが付き添いました。

彼の死は世界に衝撃を与え、新聞報道を通じて広く伝えられました。兄のパンフィルも追悼記事を寄稿しました。

ダミアンの遺体と聖人列聖

ダミアンの遺体は当初、モロカイ島に埋葬されていましたが、1936年にベルギーへ移送され、ルーヴァン大聖堂に安置されました。1995年に列福、2009年には聖人と列聖されました。列聖には、ダミアンの祈りの力による奇跡が認められました。バチカンでの列聖式典には、ベルギーやハワイから多数の参列者が訪れました。

医学的考察

ダミアンの発病原因については、ハンセン病学者ウイリアム・ジョップリングは、モロカイ島での患者との接触に加え、ダミアン自身の免疫状態も発病に大きく影響したと考察しています。ダミアンは、ハンセン病にかかりやすい体質であった可能性を示唆しています。

ダミアン神父を偲んで

ダミアン神父は、ハンセン病患者への深い愛情と献身的な奉仕によって、多くの人々に深い感銘を与えました。彼の生涯は、社会から排除された人々への愛と、自己犠牲の精神の象徴となっています。ハワイのワイキキにはダミアン神父を記念した博物館もあり、彼の功績は今も人々に語り継がれています。彼の像は、ハワイ州会議事堂や埼玉県立近代美術館などにも建立されています。

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