ダライ・ラマ11世

ダライ・ラマ11世 ケードゥプ・ギャツォ

ダライ・ラマ11世、ケードゥプ・ギャツォ（1838年11月1日 - 1856年1月31日）は、チベット仏教ゲルク派における重要な転生者であり、観音菩薩の化身とされるダライ・ラマの11代目です。幼くしてその地位に就き、激動の時代に翻弄されながらも、チベットの精神的、政治的指導者としての役割を果たしました。

生涯

ケードゥプ・ギャツォは、チベット東部のカム地方、現在の中国四川省カンゼ・チベット族自治州道孚県に位置するガルタルで生まれました。父はツェタン・ドンドゥップ、母はユンドゥン・ブーティです。

1842年、わずか3歳でダライ・ラマとして認定され、ラサのポタラ宮で戴冠式が行われました。しかし、その治世は長くはありませんでした。22歳に満たない若さで亡くなった4人のダライ・ラマ（9世～12世）のうちの一人です。

即位までの経緯

1837年、ダライ・ラマ10世ツルティム・ギャツォが21歳で急逝。公式には病死とされましたが、当時の摂政ツェモンリン・ンガワン・ジャンベル・ツルティムの内政に必ずしも同意していなかったため、暗殺説も囁かれました。

10世の死後、転生者の捜索が行われ、1841年にケードゥプ・ギャツォが認定されました。当時のパンチェン・ラマ7世テンパイ・ニーパによって剃髪の儀が執り行われ、「ケードゥプ・ギャツォ」という僧名が授けられました。

短い治世とチベットを巡る国難

11世の治世は、国内外で多くの困難に直面しました。シク王国との間でドーグラー戦争が勃発し、ネパールとの間でもネパール・チベット戦争（第二次グルカ戦争）が起こりました。清朝もアヘン戦争や太平天国の乱の影響で、チベットへの援軍を送る余裕がなく、チベットは内憂外患の状態に陥りました。

ドーグラー戦争

1834年、シク王国のドーグラー勢力がラダックに侵入し、併合。多くのラダック住民がチベットへ亡命しました。1841年には、シク軍がチベット西部のガリ地区に侵入し、ドーグラー戦争が勃発。チベット軍は善戦しましたが、最終的にシク王軍の近代兵器の前に敗北しました。

国内の混乱

ダライ・ラマ10世の時代から権力を握っていた摂政ツェモンリンに対し、ラサの住民は不満を募らせていました。11世が即位して3年後の1844年には、摂政排斥運動が反乱に発展し、チベットは危機的な状況に陥りました。清朝の道光帝は、アンバン（駐蔵大臣）として綺善を派遣し、摂政を廃位させ、カシャ（内閣）の権力を復活させました。

急逝とその後

1855年、ダライ・ラマ11世は政務を執り始めましたが、そのわずか11ヶ月後の1856年1月31日、17歳の若さで急逝しました。その死因は謎に包まれています。

11世の死後、再び摂政が置かれ、12世の転生者探しが始まりました。しかし、9世から12世までの4人のダライ・ラマがいずれも若くして亡くなったことは、チベット政治に暗い影を落としました。

ダライ・ラマ11世は、短い生涯ではありましたが、激動の時代にチベットの指導者として、その役割を果たそうと努めました。彼の治世は、チベット仏教史における重要な一章として、記憶されています。

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