ダラサウルス

ダラサウルス：原始的なモササウルス科の謎

ダラサウルス（Dallasaurus turneri）は、約9000万年前の白亜紀後期に生息していた、絶滅したモササウルス科の爬虫類です。「ダラスのトカゲ」を意味する学名が示す通り、アメリカ・テキサス州ダラス周辺で発見されました。この属は、モササウルス科の中でも初期の形態を保持しており、その進化の過程を理解する上で重要な存在とされています。

発見と標本

ダラサウルスは、主に2つの部分的な骨格標本に基づいて研究が進められています。

ホロタイプ標本 TMM 43209-1：テキサス大学オースティン校テキサス記念博物館に所蔵されており、関節が外れた頭骨と、体の約80％を占める頭骨以降の骨格で構成されています。
標本 DMNH 8121-8125, 8143-8149, 8161-8180：ダラス自然史博物館に所蔵されており、頭骨の要素を欠き、頭骨以降の骨格も関節が外れた状態です。

これらの化石は、テキサス州ダラス近郊のアルカディア公園頁岩層から発掘されました。この地層は、当時、住宅開発のための採掘によって露出しましたが、現在は埋め戻されています。2つの標本は、約100メートル離れた場所で発見されました。最初の化石を発見したアマチュア化石収集家ヴァン・ターナーに敬意を表し、タイプ種の学名がつけられました。

ダラサウルスの特徴

ダラサウルスは、全長1メートル未満の小型のモササウルス類でした。以下のような特徴が、その独特な進化を示しています。

小型のplesiopedal（原始的な四肢を持つ）モササウルス上科：ティロサウルスやモササウルスといった巨大なモササウルス科と比較すると、非常に小型です。
特徴的な歯：後側の上顎骨歯は後方へ強く湾曲しており、歯冠はわずかに膨らみ、側面には弱い鋸歯状の構造が見られます。
特異な椎骨：環椎の神経弓は中央外側へ縮小し、関節丘表面が8の字型をなす特徴があります。また、頸椎の椎体の腹側縁よりも低い位置まで突出します。
短い突起：不規則な長さの短い突起の中で、下骨突起の前腹側縁が終わります。後関節突起は、石灰化した軟骨の頂点を保持する骨性骨端に覆われています。

plesiopedal（原始的な四肢を持つ）という特徴

ベルとポルシンは、「plesiopedal」という用語を用いて、ダラサウルスの特徴を説明しました。この用語は、より進化したモササウルス科と比較して、「遊泳に適した尾を持ち、四肢が原始的で小型である」ことを意味します。plesiopedalなモササウルス類は、上腕骨、橈骨、尺骨に対応する骨格要素が細長く、前肢の骨の全長に対して半分以上を占める傾向があります。これに対し、より進化したhydropedalなモササウルス類では、これらの骨は短く頑丈になり、前肢の半分未満の割合を占めます。このことから、plesiopedalなモササウルス類は、陸上での移動も可能であり、両生類的な生態を持っていたと考えられています。

分類上の位置づけ

ベルとポルシンの系統解析によれば、ダラサウルスはモササウルス科のモササウルス亜科に分類されます。小型で原始的な四肢を持つものの、側系統群であるアイギアロサウルス科には含まれないと結論付けられました。ダラサウルスは、クリダステス、プログナトドン、モササウルス、プロトサウルスなど、より派生的なモササウルス科の姉妹群とされています。

重要なミッシングリンク

ダラサウルスは、完全に水生に適応したモササウルス類と、その陸上祖先を結びつける「ミッシングリンク」として、非常に重要な存在です。その形態は、モササウルス科がどのようにして水生生活へと適応していったのかを理解するための手がかりを与えてくれます。

まとめ

ダラサウルスは、テキサス州ダラスで発見された、原始的な特徴を持つ小型のモササウルス科の爬虫類です。その発見は、モササウルス科の進化過程を解明する上で重要な貢献をしました。plesiopedalな特徴を持ち、水生と陸生の両方の生活に適応していた可能性が示唆されています。モササウルス科の進化を語る上で、ダラサウルスは欠かせない存在です。


参考文献

* Bell, G. L.; Polcyn, M. J. (2005). “Dallasaurus turneri, a new primitive mosasauroid from the Middle Turonian of Texas and comments on the phylogeny of the Mosasauridae (Squamata)”. Netherlands Journal of Geoscience (Geologie en Mijnbouw) 84 (3): 177–194.

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