チェロ協奏曲 (フィンジ)

ジェラルド・フィンジ：チェロ協奏曲イ短調作品40

ジェラルド・フィンジが作曲した「チェロ協奏曲イ短調作品40」は、作曲家にとって晩年にあたる1955年に完成された重要な作品です。この協奏曲は、突如として着想されたものではなく、中間楽章に端を発する長年にわたる構想を経て、最終的には指揮者ジョン・バルビローリからの委嘱に応える形で実を結びました。

作曲の経緯

フィンジはかなり以前からチェロ協奏曲のアイデアを温めていました。具体的には、緩やかな第2楽章のスケッチが1930年代半ばには既に存在していたことが知られています。1940年代には、友人であるウィリアム・ブッシュへの手紙の中で、チェロ協奏曲が「長い間私の心の隅にあります」と記しており、その構想が継続されていたことがうかがえます。しかし、作曲はすぐには進みませんでした。

転機が訪れたのは1951年です。フィンジはこの年、白血病と診断され、医師から余命5年から10年と告げられます。この厳しい宣告を受け、フィンジは残された時間の中で作品を完成させるべく一念発起しました。同年11月中旬までに、彼は長年温めていた第2楽章を書き上げ、翌1952年初頭にはそのオーケストレーションを完成させました。

その後再びしばらく時間が経過しますが、1954年になって、ジョン・バルビローリから翌1955年のチェルトナム音楽祭で演奏するための大規模な作品の委嘱がもたらされます。この依頼が、未完であった協奏曲の両端楽章を完成させる決定的な契機となりました。フィンジは精力的に作曲を進め、1955年6月22日、ついにチェロ協奏曲全曲を完成させるに至りました。

初演と反響

完成から間もない1955年7月19日、作品はチェルトナム市庁舎において初演されました。チェロ独奏はクリストファー・バンティング、指揮は委嘱者でもあるジョン・バルビローリ、演奏はハレ管弦楽団でした。この初演後、作品は大きな注目を集め、作曲家フィンジが他界する前夜には、電波に乗って広く放送されました。

指揮者となる以前にチェリストであったバルビローリは、この作品に深く感銘を受けました。彼はハレ管弦楽団を率いて、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールやマンチェスターなどで本作を取り上げ、積極的に演奏しました。ロンドン初演を終えた後、バルビローリはフィンジに宛てて、作品への称賛と感動を伝える手紙を送っています。

作品の特徴

フィンジは一般的に、名人的な技巧のひけらかしや、異なる要素を激しく対比させる構成をあまり好みませんでした。その意味では、ソリストの技巧を際立たせる協奏曲という形式は、彼の本来の音楽的性向とはやや距離があるものでした。しかし、このチェロ協奏曲には、彼の他の作品にはあまり見られないような、激しさと劇的な性格が備わっています。

チェロ独奏パートの扱いも、常識的な範囲に留まっているとはいえ、フィンジの作品の中では最もヴィルトゥオーソ性が発揮されたものとなっています。これは、彼の作品としては異例であり、この協奏曲独自の魅力と言えるでしょう。

全曲の演奏時間は約36分から38分半です。

楽曲構成

作品は典型的な3楽章構成をとっています。

第1楽章：Allegro moderato

フィンジ自身はプログラム解説で「主として活発な、ほとんど荒れ狂うような素材に集中し、それが最初の主要主題を形作ります」と説明しています。楽章は管弦楽が奏でる悲劇的な主題で開始し、続いてチェロが同じ主題を受け継ぎ発展させます。この主題は、作曲家が20年近く前に書き留めていたスケッチに既に現れていたものです。やがて音楽の緊張が和らぎ、エルガーを思わせるような、どこか物憂げな雰囲気が漂います。冒頭主題が短縮された形で再現されると、管弦楽による力強いクライマックスが築かれ、その後に長尺の華麗なカデンツァが続きます。カデンツァの終わりからコーダに入り、楽章は「おどけた最後」を迎えます。

第2楽章：Andante quieto

静かで緩やかなこの楽章は、フィンジが妻ジョイの肖像を描いたものではないかとも言われています。管弦楽が提示する穏やかな主題をチェロが引き継ぎ、瞑想的な雰囲気を醸し出します。中間部では「様々なエピソード」が展開され、それが「幾分激しさを伴うクライマックス」へと導かれます。冒頭の主題が再現された後、チェロの繊細なフラジオレットによって、楽章は静かに消え入るように閉じられます。

第3楽章：Rondo: Adagio - Allegro giocoso

ロンド形式で書かれた終楽章は、緩やかな序奏部で開始します。チェロが奏でる重音のピッツィカートに、打楽器と木管楽器が応える形で、期待感を煽ります。先行楽章の「真剣さとは対照的な」雰囲気を持つ「幸せで肩ひじ張らないロンド」の主部が続きます。ロンド主題は副次主題を挟みながら繰り返し現れ、ポロネーズ風のリズムに乗った、全曲中でも特に印象に残りやすい旋律です。楽章の終盤では、一度速度を落として金管楽器がロンド主題に由来するコラールを厳かに奏でます。その後、コーダで再び速度を上げ、チェロが素早く動き回るパッセージを繰り出し、一気に曲を締めくくります。

このチェロ協奏曲は、フィンジの生涯をかけた努力と、バルビローリとの出会いが生んだ、イギリスのチェロ協奏曲の重要なレパートリーの一つとなっています。

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