ジェラルド・フィンジ

ジェラルド・ラファエル・フィンジ（Gerald Raphael Finzi, 1901-1956）は、20世紀イギリスを代表する作曲家であり、リンゴの品種保存や蔵書家としても知られる人物です。

生涯の始まりと若き日の悲しみ

フィンジはロンドンに生まれました。父はイタリア系、母はドイツ系で、ともにユダヤ人の家系でしたが、フィンジ自身はイングランドの音楽的伝統を色濃く受け継ぎ、形式的なユダヤ教徒ではありませんでした。また、不可知論者でありながら、聖公会の典礼に基づいた、霊感あふれる感動的な合唱曲を数多く作曲しました。

彼は7歳の時に船舶仲介業を営む父を亡くし、少年時代は個人教育を受けました。第一次世界大戦中に家族とハロゲイトへ転居し、フランク・ブリッジの親友であるアーネスト・ファーラーから音楽を学びますが、ファーラーは徴兵され西部戦線で戦死。師の死はフィンジに深い悲しみをもたらしました。この困難な時期には、他にも3人の兄弟を失うという不幸が重なります。これらの相次ぐ喪失体験は、彼の人生観に暗い影を落としましたが、トマス・トラハーンや、特に愛読したトーマス・ハーディといった詩人の作品に安らぎを見出し、彼らの詩に触発されて作曲を始めました。彼はこれらの詩人、さらにクリスティーナ・ロセッティや後にワーズワースに見られる、純粋な子供時代が成長に伴う経験によって損なわれるという主題に深く共感しました。

音楽の探求と発展

ファーラーの死後、ヨーク大寺院のオルガニスト兼合唱指揮者であったエドワード・ベアストウに師事しました。ベアストウはファーラーに比べて厳格な指導者でした。1922年にベアストウのもとでの学習を終えると、グロスタシャーに移り、この地で集中的に作曲に取り組みました。初期のハーディ歌曲集や管弦楽曲「セヴァーン狂詩曲」がロンドンで初演され、彼の名が知られるようになります。1925年にはエイドリアン・ボールトの勧めでR.O.モリスに対位法を学び、ロンドンに移住してハワード・ファーガスンやエドマンド・ラッブラといった音楽家たちと親交を結びました。さらに、ホルスト、ブリス、そして特にラルフ・ヴォーン・ウィリアムズといった大家たちとも出会い、ヴォーン・ウィリアムズの推薦により、1930年から1933年まで王立音楽アカデミーの講師を務める機会を得ました。

ロンドンの生活に馴染めなかったフィンジは、画家であるジョイス・ブラック（ジョイ）と結婚後、バークシャーのオルドボーンに移り住みました。ここでは作曲活動に加え、園芸、特に絶滅の危機に瀕していたイングランド産リンゴの希少品種の保存に情熱を注ぎました。また、イギリスの詩、哲学、文学に関する貴重な書籍約3000冊を蒐集し、その蔵書は現在レディング大学に収蔵されています。

1930年代の作品数は少ないながらも、この時期に彼の成熟した様式が確立されました。特にトラハーンの詩によるカンタータ「降誕祭」（1939年）は、その代表例です。フィンジ夫妻は、精神疾患を患っていた詩人・作曲家アイヴァー・ガーニーの遺稿を整理し、目録作成、校訂、出版に貢献しました。加えて、イングランドの民謡やウィリアム・ボイス、ジョン・スタンリー、チャールズ・ウェスレーなどの古い時代のイギリス音楽の研究と出版にも尽力しました。

1939年にバークシャーのニューベリー近郊へ再転居したフィンジは、アマチュアの弦楽合奏団を結成し、亡くなるまでその指揮を務めました。18世紀や同時代の弦楽合奏作品を演奏し、ジュリアン・ブリームやケネス・レイトンといった若手音楽家にも演奏や作品発表の機会を与えました。

名声と晩年

第二次世界大戦の勃発により、スリー・クワイア・フェスティバルでの「降誕祭」初演が遅れたことはありましたが、戦後には作曲家としての名声を確立していきました。戦時中は戦時移送省に勤務し、自宅にドイツやチェコスロバキアからの亡命者を受け入れました。戦後は以前より精力的に創作を行い、いくつかの合唱曲に加え、現在最もよく知られている作品の一つであるクラリネットと弦楽のための協奏曲（1949年）が生み出されました。

この頃になると、フィンジの作品はスリー・クワイア・フェスティバルなどで頻繁に演奏されるようになります。しかし、1951年にホジキンリンパ腫と診断され、余命が長くないことを宣告されます。この時の心境は、晩年の傑作であるチェロ協奏曲（1955年完成）の第1楽章に反映されているとも言われます。一方、この協奏曲の第2楽章は、当初妻の音楽的肖像として構想されたこともあり、非常に穏やかで抒情的な性格を持っています。

1956年、ヴォーン・ウィリアムズと共にグロスター近郊を旅した際に水痘にかかり、既に衰弱していたフィンジの健康状態は悪化。重篤な脳の炎症を引き起こしました。その数日後、オックスフォードの病院で、自身のチェロ協奏曲のラジオ初演を聴いた翌日に息を引き取りました。

作品の特徴

フィンジの作品は、詩と深く結びついた声楽曲、特に歌曲集に重要なものがあります。トーマス・ハーディの詩による6つの歌曲集があり、最初の「By Footpath and Stile」（1922年）は声楽と弦楽四重奏のために書かれましたが、他のハーディ歌曲はピアノ伴奏です。また、シェイクスピアの詩を用いた歌曲集「花束を運ばせてほしい」（1942年）は特に有名です。シェイクスピア関連では、劇付随音楽「恋の骨折り損」（1946年）も作曲しています。管弦楽伴奏の声楽曲としては、神秘的な「降誕祭」のほか、平和への思いを込めた「武器よさらば」（1944年）などがあります。

合唱曲では、アンセム「見よ、満ち足りた最後の生贄」「神は上れり」といった人気曲に加え、「無伴奏のパートソング」があります。さらに大規模な作品として、エドマンド・ブランデンの詩による「聖なるセシリアのために」や、ワーズワースの詩によるカンタータ「神の御告げ」、ルカ福音書に基づくクリスマス劇「地には平和」などがあります。

器楽曲の数は比較的少ないですが、初期から熱心に取り組んでいました。ピアノ協奏曲は完成に至らず、その楽章は独立した作品として「牧歌」や「大幻想曲とトッカータ」に転用されました。完成されたヴァイオリン協奏曲は、ヴォーン・ウィリアムズの指揮で初演されましたが、フィンジ自身はこの作品に満足せず、中間楽章（「入祭唱」と呼ばれる）を除いて撤回しています。室内楽としては、クラリネットとピアノのための「5つのバガテル」などがレパートリーに残っています。

フィンジの音楽は、イングランドの田園風景や詩情、そして人生の哀感を反映した、抒情的で奥行きのある美しさが特徴です。その作品は、20世紀イギリス音楽において確固たる地位を占めています。

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