チャコ文化国立歴史公園

チャコ文化国立歴史公園：古代プエブロ文化の壮大な遺跡

チャコ文化国立歴史公園は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州北西部に位置し、古代プエブロ文化の遺跡が集中する地域です。この地は、ユネスコの世界遺産にも登録されており、その文化的、歴史的価値は非常に高いとされています。

概要

チャコ・キャニオンは、紀元後900年から1150年にかけて、プエブロ文化の中心地として繁栄しました。人々は砂岩を切り出し、遠方から木材を運び、壮大な建造物を築き上げました。これらの遺跡には、天体観測の痕跡も見られ、特にファハダ・ビュートにある「太陽の短剣」は、春分、秋分、夏至、冬至の位置を示す岩絵として知られています。これらの建造物は、太陽や月の周期を考慮して設計された可能性も指摘されています。

しかし、1130年頃から始まった50年に及ぶ旱魃により、チャコ・キャニオンの人々は他の場所へ移住し、集落は放棄されました。現在、この地はホピ族やプエブロ族にとって神聖な先祖の地であり、その歴史や精神的なつながりは口承で語り継がれています。公園の保護活動は、先住民の信仰との葛藤を抱えつつも、文化遺産の継承と尊重を両立させるべく進められています。

地理

チャコ・キャニオンは、サン・ファン盆地に位置し、コロラド高原上にあります。周囲は、チュスカ山地、サン・ファン山地、サン・ペドロ山地などの山々に囲まれています。古代の人々は、オーク、ピニョン松、ポンデローサ松などの森林から木材や食料を確保していました。渓谷は砂丘やメサ（頂上が平らな台地）に囲まれ、北西から南東に流れています。崖面は風雨にさらされ、浸食が速く進んでいます。

主要な集落は、標高1,890mから1,963mの間に位置しています。谷底はわずかな小川の流れが見られる程度で、地下水は非常に深い場所にあり利用は困難でした。地表の水資源は、一時的な豪雨による小川の流水に限られていました。

気候

チャコ・キャニオンは、乾燥した灌木地や砂漠に近いステップ気候で、年間の降水量は平均200ミリ程度です。山脈の風下側にあたるため、降水量が著しく少なく、湿気も少ない地域です。四季はありますが、降水量は7月から9月にかけて最も多く、5月から6月にかけて最も乾燥します。また、気温変化が激しく、氷点下39度から摂氏39度まで変動することがあります。この地域の気候は、エルニーニョ現象の影響を強く受けることも特徴です。

チャコ・キャニオンの遺跡群と調査史

チャコ・キャニオンには、紀元前1万年前後から狩猟採集民が訪れていましたが、定住が始まったのは紀元490年頃からです。この頃、バスケットメーカーと呼ばれる人々が農耕を始め、竪穴建物に住んでいました。800年頃からは集落が発展し、キヴァと呼ばれる半地下式の宗教儀式空間が設けられるようになりました。850年代になると、プエブロの人々は砂岩を使った集落を築いて集住するようになり、この人々はナバホ族によって「アナサジ（古代の人々、敵の先祖）」と呼ばれるようになりました。

10世紀以降、トルコ石の交易が盛んになり、プエブロ・ボニートの最も古い部分が建設されました。1140年頃からは集住システムが崩壊し始め、50年に及ぶ旱魃の影響により、12世紀末にはチャコ・キャニオンは放棄されました。研究者たちは、プエブロの人々が、リトル・コロラド川、リオ・プエルコ川、リオ・グランデ川沿いに移住したと考えています。

12世紀初め頃には、ユト族やショショーニ族などのヌミック語派の人々が、15世紀からはアパッチ族やナバホ族の人々がチャコ・キャニオンにやってきました。彼らはチャコ・キャニオンの生活習慣や農耕技術を習得しました。17世紀にはスペイン人が到来し、征服と反乱の時代を経て、チャコ・キャニオンは難民を受け入れる場所となりました。

19世紀には、ジョサイア・グレッグがチャコ・キャニオンを訪れて記録を残し、その後アメリカ陸軍が調査を行いました。本格的な考古学的調査は1896年から始まり、ハイド調査隊がプエブロ・ボニートの発掘を行いました。1907年にはセオドア・ルーズベルト大統領によって国定記念物に指定され、その後、範囲が拡大され、1980年にチャコ文化国立歴史公園となりました。1987年にはユネスコの世界遺産に登録されています。

歴史公園の運営

チャコ文化国立歴史公園は、国立公園局によって管理されています。1980年代には徹底的な発掘調査が行われましたが、1991年には先住民諮問委員会が設立され、先住民の意見を取り入れながら、遺跡の保護と活用が進められています。公園内では、遺跡の発掘、復元、埋め戻しが行われ、「チャコの夜空を守るプログラム」によって、夜間の照明による光害の除去にも取り組んでいます。

しかし、公園外での開発による脅威も存在し、炭鉱開発によって古代の道路網が脅かされる可能性も指摘されています。

遺跡

チャコ・キャニオンには、渓谷の底に沿って14kmにわたり遺跡が分布しています。月が昇る位置に合わせて造られた建物も存在します。9つのグレートハウスが、乾燥した渓谷の北端にある巨大な砂岩のメサの麓に位置しています。これらのグレートハウスは、チャコ・キャニオンの中心的な構造物であり、その特徴的な建築様式は、古代プエブロ文化の繁栄を物語っています。

主要な遺跡

プエブロ・ボニート（Pueblo Bonito）: 8,000平方メートルの面積を持つ最大のグレートハウスで、少なくとも650の部屋があります。一部は4階建てで、大小36のキヴァがあります。
プエブロ・デル・アロヨ（Pueblo del Arroyo）: プエブロ・ボニートの近くに位置し、1050年から1075年の間に建設されました。
シェトロ・ケトル（Chetro Ketl）: プエブロ・ボニートの近くにあり、典型的なD字形をしています。1020年から1050年の間に建設され、450から550の部屋があります。
キン・クレッツオ（Kin Kletso）: プエブロ・ボニートから西に0.8kmに位置する中規模の集落で、55の部屋があります。
プエブロ・アルト（Pueblo Alto）: メサの頂上に築かれたグレートハウスで、89の部屋があります。1020年から1050年の間に建設されました。
ツィン・クレツィン（Tsin Kletsin）: Chacra Mesaの上に築かれ、Weritosダムの近くに位置します。ビーズやトルコ石製品の工房がありました。
ヌエボ・アルト（Nuevo Alto）: プエブロ・アルトの北にあるメサの上に建設されたグレートハウスです。
カサ・チキータ（Casa Chiquita）: チャコ・キャニオンの北限に位置するグレートハウスです。1080年頃に建設されました。
ペニャスコ・ブランコ（Peñasco Blanco）: チャコ・キャニオンの渓谷を見下ろす南岸に位置し、壁画で知られています。
フンゴ・パヴィ（Hungo Pavi）: ウナ・ヴィーダの北に位置するグレートハウスです。
キン・ナハスバス（Kin Nahasbas）: 北のグレートハウス群に属する主要な遺跡の一つです。
ウナ・ヴィーダ（Una Vida）: チャコ・キャニオンで最も古いグレートハウスの一つです。
ウィジジ（Wijiji）: 最も小さく、100ほどの部屋で構成されています。1110年から1115年の間に建設されました。
カサ・リンコナーダ（Casa Rinconada）: 大キヴァを持つ遺跡で、他のチャコ・キャニオンの遺跡から独立しています。

これらの遺跡群は、チャコ・キャニオンの古代文化と歴史を物語る貴重な遺産です。

廃墟

チャコ・キャニオンの遺跡は、グレートハウスと呼ばれる祭祀センターであり、独特の建築様式を持っています。グレートハウスは、弧状に高く張り出す構造を持ち、平均して200以上の部屋があります。部屋は丈夫に造られ、南向きで、中庭（プラザ）を持つ構造が一般的です。複数階建ての構造を持ち、キヴァと呼ばれる儀礼的な空間も併設されています。グレートキヴァと呼ばれる特大のキヴァも存在します。

建物の壁は、芯の部分と表面の仕上げられた部分で構成されており、壁の隙間には荒石が詰められています。壁の表面には、特徴的な文様が作られることがあります。建物の建設には、遠方から運ばれた大量の木材が使われています。

チャコ・キャニオンの遺跡は、天体の動きや幾何学的な配列を意識して設計されており、その独特な公共建築物は、古代都市の姿を伝えています。研究者たちは、これらの遺跡が、特別な儀式や行事のために使われた一時的な集会場所であったと考えています。チャコ・キャニオンの集落の位置は、天文学的な意味から配置された可能性が指摘されています。これらの遺跡は、10世紀から11世紀にかけてのプエブロ文化の隆盛を象徴しており、その建築技術は周辺地域にも伝播しました。

チャコ道路網

チャコ・キャニオンの周辺には、チャコ道路網と呼ばれる道路システムが構築されています。これらの道路は、他の集落とチャコ・キャニオンの中心部を結び、直線的に設計されています。道路は、幅が9m近く、岩塩を含んだ沖積層で舗装され、土を突き固めた法面や石で境界が作られています。チャコ道路網は、崖などの障害物を迂回して作られ、急斜面には階段やスロープが設けられています。道路の機能は完全には解明されていませんが、木材を運搬するために使用されたという説が有力です。

世界遺産

チャコ文化国立歴史公園は、1987年にユネスコの世界遺産に登録されました。当初の名称は「チャコ文化国立歴史公園」でしたが、2006年に「チャコ文化」に変更されました。登録基準は、以下の通りです。

* (3) 現存する、または消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠であること。

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