チャーハマーナ朝
チャーハマーナ朝：北インドに栄えたラージプートの王朝
チャーハマーナ朝（Chahamana dynasty）は、6世紀半ばから12世紀末にかけて、現在の北インド、ラージャスターン地方を中心に栄えたヒンドゥー王朝です。ラージプートの有力な一族であり、チャウハーン朝とも呼ばれています。その歴史は、ラージャスターンの小国から、北インドを代表する強国へと発展し、最終的にはイスラム勢力の侵攻によって滅亡するという、激動の歴史を辿りました。
創始と初期の拡大
6世紀中頃、ラージプートのヴァースデーヴァによってチャーハマーナ朝は創始されました。しかし、当初はラージャスターンの一地方勢力に過ぎず、8世紀に成立したプラティーハーラ朝の支配下に入りました。この時代、チャーハマーナ朝は単一の王朝ではなく、各地に小勢力が散在しており、その中でシャーカンバリー（サーンバル）を拠点とする一族がプラティーハーラ朝の封臣として台頭しました。彼らは次第に勢力を拡大し、マールワーのパラマーラ朝と同盟を結び、グジャラートのチャウルキヤ朝と対立するようになりました。
10世紀半ば、デカンのラーシュトラクータ朝が北インドに侵攻すると、プラティーハーラ朝は防衛に全力を注ぐことになり、その隙をついてチャーハマーナ朝は反乱を起こしました。そして、10世紀後半のシンハラージャの時代にラージャスターンでの独立を達成しました。11世紀初頭には、アフガニスタンのイスラーム王朝であるガズナ朝が侵攻してきましたが、ラージプート諸王朝と連合して対抗しました。しかし、1018年には主家であったプラティーハーラ朝が事実上滅亡しました。12世紀初頭、アジャヤラージャの治世に、チャーハマーナ朝は堅固な山城を持つ都市アジュメール（アジャヤメール）に拠点を移し、ガズナ朝とチャウルキヤ朝に備えました。1119年にはガズナ朝によって拠点の一つであるナーガウルが占拠されましたが、アジャヤラージャの息子アルノーラージャがアジュメール郊外でガズナ軍を撃退し、領土を回復しました。
最盛期とプリトヴィーラージャ3世
12世紀後半以降、チャーハマーナ朝はハリヤーナー地方のトーマラ朝を従属させ、周辺の勢力を吸収して急速に勢力を拡大しました。その過程でデリーやハーンシーを獲得し、カナウジのガーハダヴァーラ朝、グジャラートのチャウルキヤ朝、ブンデールカンドのチャンデーラ朝を圧倒し、北インドで最も強大な勢力を誇るようになりました。その領域は、デリー北方からパンジャーブ東南端、ラージャスターンにまで及ぶ広大なものでした。
この王朝で最も有名なのが、12世紀末の王であるプリトヴィーラージャ3世です。彼の治世下で、チャーハマーナ朝は最盛期を迎えました。プリトヴィーラージャ3世は、ブンデルカンドのチャンデーラ朝の領土に侵攻し、領土拡大を図りましたが、結果的に領土は拡大せず、東隣のガーハダヴァーラ朝の王ジャヤチャンドラとの関係を悪化させることになりました。
その関係悪化の原因の一つが、プリトヴィーラージャ3世とジャヤチャンドラの娘との恋物語です。ジャヤチャンドラは娘の婿選びのため、各地の諸王に手紙を送り、首都カナウジに招きましたが、プリトヴィーラージャ3世は敵国の王であったため拒否されました。しかし、プリトヴィーラージャ3世は密かにカナウジに忍び込み、ジャヤチャンドラの娘と恋仲になり、娘を強引に連れ去ってしまいました。この出来事は、後にチャンド・バルダーイーによって「プリトヴィーラージ・ラーソー」という文学作品に描かれましたが、ジャヤチャンドラは激怒し、両国間の関係は決定的に悪化しました。
ゴール朝の侵攻と滅亡
11世紀後半にガズナ朝に代わって台頭したイスラーム王朝のゴール朝は、1190年にチャーハマーナ朝の領土に侵攻を開始しました。プリトヴィーラージャ3世は、チャウルキヤ朝やパラマーラ朝などに呼びかけ、ラージプートの連合軍を結成してその盟主となりましたが、ガーハダヴァーラ朝のジャヤチャンドラは恨みがあったためこれに加わりませんでした。1191年、ゴール朝の軍とラージプート連合軍はデリーから約150キロ離れたタラーインで交戦し、数で有利だったラージプート連合軍が勝利しました（タラーインの戦い）。しかし、翌1192年の第2次タラーインの戦いでは、ラージプート連合軍は前回と同じく有利だったにも関わらず敗北し、プリトヴィーラージャ3世は捕らえられました。
プリトヴィーラージャ3世は、捕らえられた後、ゴール朝の支配下でアジュメール王として従属することになりましたが、まもなく殺害されました。殺害の理由には諸説ありますが、独立を企てたためという説が有力です。プリトヴィーラージャ3世の死後、息子のゴーヴィンダラージャはゴール朝に貢納を納めることになりましたが、その額は非常に高額でした。そのため、プリトヴィーラージャ3世の弟であるハリラージャは不満を抱き、1193年にゴーヴィンダラージャをアジュメールから追放し、自ら王となりました。同年、ゴール朝の武将クトゥブッディーン・アイバクはデリーを占拠しました。
1195年頃、ハリラージャはデリーを奪還しようとしましたが、逆にアイバクに攻め込まれ、アジュメールの戦いで敗北し、チャーハマーナ朝は滅亡しました。しかし、ハリラージャはラジャースターン東端のランタンボールを拠点に、ランタンボール・チャーハマーナ朝を創始し、その命脈を繋ぐことになりました。
このように、チャーハマーナ朝は、ラージャスターンの小国から北インドを代表する強国へと発展し、最盛期を迎えたものの、イスラム勢力の侵攻によって滅亡するという激動の歴史を辿りました。その興亡の歴史は、中世インド史における重要な出来事の一つであり、今もなお多くの歴史家や研究者の関心を集めています。
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