プラティーハーラ朝

プラティーハーラ朝：北西インドを支配したヒンドゥー王朝

プラティーハーラ朝は、8世紀後半から11世紀初頭にかけて、北西インドを支配したラージプートのヒンドゥー王朝です。グルジャラ族が建国したことから、グルジャラ・プラティーハーラ朝とも呼ばれています。首都はカナウジに置かれました。

概要

プラティーハーラ朝は、インド北東部のパーラ朝、デカンのラーシュトラクータ朝と頻繁に争いました。しかし、この王朝がインド史において果たした最も大きな役割は、イスラーム勢力のシンド以東への進出を約300年もの間、阻止し続けたことです。

歴史

前史

プラティーハーラ朝は、ラージプーターナー地方に定着したラージプートのグルジャラ族に属し、6世紀中頃にバラモン出身のハリチャンドラを祖とする家系から分かれました。この家系はいくつかの系統に分かれていましたが、そのうちの一つがプラティーハーラ朝を築きました。

建国期

ナーガパタ1世（在位：750年 - 780年）は、ヴァルダナ朝滅亡後のガンジス川流域の混乱に乗じて勢力を拡大し、シンド地方を征服したアラブ勢力の進出を阻止し、北西インドの主導権を握りました。ヴァッツァラージャ（在位：780年 - 800年）は、ベンガル方面へ遠征し、パーラ朝のダルマパーラと戦って領土を広げましたが、ラーシュトラクータ朝に敗れました。ナーガパタ2世（在位：800年 - 833年）の時代には、勢力を挽回し、パーラ朝を破ってカナウジを占領し首都としましたが、ラーシュトラクータ朝のゴーヴィンダ3世に再び敗れました。

再興期

ナーガパタ2世の孫であるボージャ1世（在位：836年 - 885年）は、王朝を再興し、北はヒマラヤ山麓、南はナルマダー川、東はベンガルのパーラ朝の領域を除く北インドの大部分を支配しました。また、ラーシュトラクータ朝に勝利してグジャラートを獲得し、海上交易の拠点も手に入れました。さらに、弱体化したパーラ朝を攻め、東方へも領域を拡大しました。ボージャ1世の息子、マヘーンドラパーラ1世（在位：885年 - 910年）の時代も王朝の繁栄は続き、広大な領土を維持しました。アラブ人旅行家マスウーディーは、当時のプラティーハーラ朝について、インドで最も優秀な騎兵軍を持っていると述べています。

衰退期

10世紀前半、プラティーハーラ朝はラーシュトラクータ朝に攻撃され、グジャラートを失って衰退に向かいました。さらに、支配下にあった諸国が次々と独立し、王朝は分裂と弱体化を余儀なくされました。

滅亡

ラージヤパーラ（在位：960年 - 1018年）の時代、ガズナ朝のマフムードの攻撃を受け、1018年に首都カナウジが陥落しました。ラージヤパーラはカナウジを逃れましたが、首都を明け渡したとしてチャンデーラ朝に殺害されました。その後、王朝は衰退しながらも存続しましたが、1036年にヤシャパーラ（在位：1024年 - 1036年）の代で完全に滅亡しました。11世紀末には、カナウジを中心とした北インドにガーハダヴァーラ朝が興りました。

歴代君主

1. ナーガパタ1世（Nagabhata I, 在位：750年 - 780年）
2. ヴァッツァラージャ（Vatsaraja, 在位：780年 - 800年）
3. ナーガパタ2世（Nagabhata II, 在位：800年 - 833年）
4. ラーマバドラ（Ramabhadra, 在位：833年 - 836年）
5. ボージャ1世（Bhoja I, 在位：836年 - 885年）
6. マヘーンドラパーラ1世（Mahendrapala I, 在位：885年 - 910年）
7. ボージャ2世（Bhoja II, 在位：910年 - 913年）
8. マヒーパーラ1世（Mahipala I, 在位：913年 - 944年）
9. マヘーンドラパーラ2世（Mahendrapala II, 在位：944年 - 948年）
10. デーヴァパーラ（Devapala, 在位：948年 - 954年）
11. ヴィナーヤカパーラ（Vinayakapala, 在位：954年 - 955年）
12. マヒーパーラ2世（Mahipala II, 在位：955年 - 956年）
13. ヴィジャヤパーラ（Vijaypala, 在位：956年 - 960年）
14. ラージヤパーラ（Rajyapala, 在位：960年 - 1018年）
15. トリローチャンパーラ（Trilochanpala, 在位：1018年 - 1027年）
16. ヤシャパーラ（Yashapala, 在位：1024年 - 1036年）

参考文献

サティーシュ・チャンドラ著、小名康之、長島弘訳『中世インドの歴史』山川出版社、2001年。
『アジア歴史事典』8（ヒ〜ミ）貝塚茂樹、鈴木駿、宮崎市定他編、平凡社、1961年

もう一度検索