チャンデーラ朝

チャンデーラ朝：インド中部の興亡

チャンデーラ朝は、9世紀初頭から14世紀初頭にかけて、現在のインド・マディヤ・プラデーシュ州に位置するブンデールカンド地方で繁栄したヒンドゥー王朝です。この王朝は、ラージプートの血を引くとされ、その歴史は、初期の独立闘争、最盛期、そして最終的な滅亡という、波乱に満ちたものでした。

建国と独立への道

9世紀初頭、ナンヌカという人物がチャンデーラ朝の祖となり、ブンデールカンドを支配しました。当初はプラティーハーラ朝の封臣でしたが、独自の勢力を拡大しました。チャンデーラ朝は、自らを「月」から生まれたクシャトリヤの家系と主張し、ラージプート王朝としての正当性を示そうとしました。

916年から917年にかけてのラーシュトラクータ朝による北伐は、チャンデーラ朝の台頭を促す転換点となりました。プラティーハーラ朝の首都カナウジが陥落する中、チャンデーラ朝は力を蓄え、940年頃にはヤショーヴァルマン王の時代にラーシュトラクータ朝とカラチュリ朝の侵攻を撃退しました。この戦いでカーリンジャルを奪還し、独立の契機を掴んだのです。

ヤショーヴァルマン王は、首都カジュラーホーにラクシュマナ寺院を建立しました。この寺院は、ヴィシュヌ神に捧げられたもので、チャンデーラ朝の芸術的な才能を示す重要な遺産です。プラティーハーラ朝の衰退とともに、チャンデーラ朝はブンデールカンドでその独立性を確立し、10世紀後半のダンガ王の治世には事実上の独立を果たしました。

ダンガ王は、周辺諸国との争いを経て領土を拡大しました。また、ヴィシュワナータ寺院やパールシュワナータ寺院など、多くの寺院を建設しました。カジュラーホーの西グループに位置するチトラグプタ寺院やデーヴィー・ジャガダンバー寺院も、この時代に建立されたものです。

最盛期と外敵の侵入

11世紀初頭、ヴィディヤーダラ王の時代にチャンデーラ朝は最盛期を迎えました。彼は、マールワーのパラマーラ朝やカラチュリ朝の勢力を撃退し、その勢力を拡大しました。この時代に建設されたカンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院は、シヴァ神の住まいとされるカイラス山を模して作られたとされ、その壮大さは今日でも多くの人々を魅了しています。

しかし、この時期、アフガニスタンのガズナ朝が北インドに侵入し、1018年にはプラティーハーラ朝の首都カナウジが陥落しました。その際、チャンデーラ朝は、プラティーハーラ朝の君主を殺害するという事件を起こしました。そして、1019年にはチャンデーラ朝もガズナ朝の攻撃を受け、1022年には首都カーリンジャルが包囲されました。ヴィディヤーダラ王は、最終的にガズナ朝に降伏し、象を献上することで独立を保つことができました。

チャンデーラ朝は、複数の拠点を持ち、マホーバーを政治的中心地、カーリンジャルとアジャヤガルを軍事拠点、カジュラーホーを宗教拠点としていました。特にカジュラーホーは、多数のヒンドゥー寺院が建設され、世界遺産にも登録されている「カジュラーホーの寺院群」として知られ、その宗教的・芸術的な価値は世界的に認められています。

衰退と滅亡

12世紀後半、チャンデーラ朝は衰退期に入ります。ヴィディヤーダラ王の来孫であるパラマルディン王の時代、チャーハマーナ朝がブンデールカンドに侵攻し、1182年にチャンデーラ朝の軍勢は敗北を喫しました。この戦いでは、マホーバーを守るためにアールハーとウーダル兄弟が戦死するという悲劇が起こりました。

1203年には、ゴール朝のムハンマド・ゴーリーの将軍アイバクによって、カーリンジャルとマホーバーが攻撃を受け陥落しました。1205年、トライローキヤヴァルマン王の時代に一時的に勢力を回復したものの、かつての繁栄を取り戻すことはできませんでした。

1309年頃、ハルジー朝のアラー・ウッディーン・ハルジーの命を受けたマリク・カーフールによって、チャンデーラ朝は滅亡したとされています。こうして、約500年にわたるチャンデーラ朝の歴史は、幕を閉じたのです。

チャンデーラ朝は、その芸術的な遺産、特にカジュラーホーの寺院群によって、今日でもその存在が語り継がれています。彼らの歴史は、インド中世史における重要な一ページとして、深く記憶されるべきものです。

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