チンバッソ

チンバッソ（Cimbasso）とは

チンバッソは、低音域を担当する金管楽器の一種で、バルブトロンボーンに分類されます。一般的に5つから6つのバルブを備え、楽器を縦に構えて演奏するのが特徴です。特に、作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの作品で多用されることで知られています。

概要

現代のチンバッソは、主にF管が用いられており、全長約340cmと大型の楽器です。チェロのようにエンドピンで支え、縦に構えて演奏しますが、ベルの向きはトロンボーンと同様に前方へ向いています。マウスピースはチューバと同じものが使用され、演奏者もチューバ奏者が兼任することが多いです。

右手の4つのバルブは、他の金管楽器と同様に、それぞれ全音、半音、1.5音、2.5音の音程を下げる役割を担います。左手で操作するバルブは補正用で、第5バルブは全音よりわずかに低く、第6バルブ（搭載されている場合）は半音よりわずかに低い音程を生成します。これにより、例えば完全五度（3.5音）下げる際に、1番と4番のバルブの組み合わせでは音が高くなってしまうため、4番と5番を組み合わせることで、正確な音程を得ることができます。これらのバルブ操作により、ペダルトーンのF1までのすべての半音を演奏することが可能です。

歴史

チンバッソという楽器の歴史は非常に複雑で、その語源も明確ではありません。有力な説としては、「低音金管楽器」を意味するイタリア語の「corno in basso」を略した「c. in basso」が語源であると考えられています。この言葉は19世紀初頭からイタリアで使用されていましたが、当時は特定の楽器を指す言葉ではなく、最低音を担当する金管楽器全般を指す言葉として使われていました。

ジュゼッペ・ヴェルディは、初期のオペラ作品である『オベルト』（1839年）以降、「チンバッソ」のパートを楽譜に記述していますが、初期の作品ではセルパンの一種である「ロシア式ファゴット (fagotto russo)」という楽器で演奏されていたと考えられています。その後、1841年頃からはオフィクレイドが使用されるようになり、さらに3つのピストンを持つF管の金管楽器であるボンバルドンが使われるようになりました。このボンバルドンも「チンバッソ」と呼ばれていましたが、ヴェルディは音色に不満を感じており、1872年の手紙の中で、低音トロンボーンを代わりに追加することを提案しています。当時のイタリアでは、B♭管のテノールトロンボーン2本とF管のバストロンボーン1本が、いずれもバルブ式で使用されていました。

1881年、ヴェルディはミラノの楽器製作者であるペリッティに、バルブ式のバストロンボーンを特注しました。このバストロンボーンは、4つのバルブを持つBB♭管のコントラバストロンボーンで、現在のチンバッソとは異なる楽器でした。ヴェルディは、このバストロンボーンを『オテロ』や『ファルスタッフ』で使用しました。また、それ以前の作品のチンバッソのパートも、この楽器で演奏されることが多くなりました。ヴェルディ以外にも、ジャコモ・プッチーニもこのバストロンボーンを使用しました。イタリアの各オーケストラでこのバストロンボーンが広く採用され、少なくともイタリアでチューバが一般的になる1920年代まで使用され続けました。

その後、スライド式トロンボーンが国際的に普及するにつれてバルブ式トロンボーンは衰退しましたが、ヴェルディの作品における半音階的な書法に対応できる楽器を求めて、ベルリン・コーミッシェ・オーパーのハンス・クーニッツが1959年に新しいトロンボーンをデザインしました。この楽器は「チンバッソ・バストロンボーン」と名付けられ、アレキサンダー社によって製造されました。これは2つのバルブを持つF管のスライド式トロンボーンでした。

1980年代中頃には、タイン社によって、F管で4〜5個のバルブを持つバルブ式トロンボーンが製造され、これが「チンバッソ」として知られるようになりました。現在チンバッソと呼ばれている楽器は、タイン社のデザインに基づいており、ヴェルディが実際に使用していたものとは異なりますが、ヴェルディやプッチーニの作品を演奏するために使用されています。

このように、チンバッソは時代や地域によって様々な変遷を辿ってきた楽器であり、現代ではヴェルディの音楽を演奏する上で欠かせない存在となっています。

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