チン民族軍

チン民族軍 (CNA) とは



チン民族軍(CNA)は、ミャンマー西部のチン州を主な活動地域とする、チン族系の少数民族武装勢力です。この組織は、政治部門であるチン民族戦線(CNF)の軍事部門として、CNFが発足した1988年3月20日に設立されました。当初は小規模で、政府との散発的な衝突を繰り返す程度でしたが、2012年1月6日にはミャンマー政府との間で停戦に合意し、2015年発効の全国停戦合意にも署名しました。

設立の背景と初期の活動



1988年の大規模な民主化運動「8888」が全国で発生し、政府が学校を閉鎖すると、多くの学生が故郷へ戻りました。チン州に戻ったチン族の学生たちもデモを組織しましたが、軍による弾圧を受け鎮圧されます。これを受けて、一部のチン族指導者と学生は、政府の弾圧から逃れるためインドのミゾラム州に避難しました。彼らはその地でチン民族戦線(CNF)およびチン民族軍(CNA)を結成しました。CNF/CNAは、結成後すぐに少数民族武装勢力の連帯組織である民族民主戦線(NDF)や、少数民族武装勢力と学生組織の連合体であるビルマ民主同盟(DAB)に参加し、他の反政府勢力との連携を模索しました。初期にはインドの情報機関から援助を受け、2005年頃までインド領内に基地を維持していました。

しかし、設立当初から内部には対立が存在し、特にファラム県出身のメンバーとハカ県出身のメンバーの間で確執が生じました。これにより、ファラム系のメンバーを中心に離脱者が相次ぎ、チン統合軍(CIA)など複数の分派組織が生まれましたが、これらの組織は現在ほとんど活動していません。このような内部の分断もあり、CNF/CNAは勢力を大きく拡大することができず、組織規模は約200名程度と小規模に留まりました。武装も十分ではなく、国軍に対する抵抗活動も限定的でした。特にファラム県の住民からの支持は十分に得られていない状況でした。

2021年クーデター後の変容



2021年のクーデター発生後、チン州ではチンランド防衛隊(CDF)などの新たな抵抗組織が多数出現し、当初はCNFは積極的に戦闘に参加しませんでした。しかし、同年2月には他の武装勢力と共同で国軍を非難する声明を発表し、志願者への軍事訓練を開始します。そして、5月28日には少数民族武装組織としてはいち早く国民統一政府(NUG)への支持を表明し、連携を強化する姿勢を示しました。同年9月には、約1万人もの民間人に軍事訓練を提供し、CDFや国民防衛隊(PDF)への装備やアドバイスの提供も行ったとされています。

その後、CNFはチン州各地でCDFなどの民主派武装組織と連合して国軍と激しい戦闘を展開するようになりました。特に、軍による放火で大きな被害を受けたタントランを巡っては多数の戦闘が発生し、国軍の拠点は大幅に縮小しました。また、チン州における民主派武装組織の連合体であるチンランド共同防衛委員会(CJDC)の一員として、道路を利用した国軍の物資輸送を困難にする作戦を遂行しています。CJDCは、チン州における戦闘で国軍が抵抗勢力に比べて不均衡に大きな犠牲を出していると主張しており、その原因を現地の地形への不慣れや兵士の士気の低さに求めています。2022年3月には、CNFの報道官は、チン州の民主派武装勢力が州の約4分の3を支配し、国軍の支配は主に都市部と主要道路に限られているとの見解を示しました。

近年の動向と他組織との関係



2022年10月に三兄弟同盟が主導する大規模な「1027作戦」が開始されると、CNFもこれに呼応し一部の都市への攻勢を強めました。同年11月にはインド国境に近いリー市やライレンピ市を占拠しました。そして、2023年12月末には、他のチン州内の民主派武装組織と共に、国軍支配下の州政府に代わる統治機構としてチンランド評議会(CC)を樹立しました。多くのチン州の民主派武装組織がこれに参加を表明しましたが、一部の主要組織、特にCDFやCNDFは、CNFが主導権を握り高圧的な姿勢を見せていると感じ、参加を見送りました。彼らは独自にチン兄弟同盟(CB)を結成し、現在もチン州内の抵抗勢力の間には複雑な力学が存在します。

CNFは国軍だけでなく、インドを拠点に活動するゾミ革命軍(ZRA)とも戦闘を行っています。また、チン州南部のパレッワの町を巡ってアラカン軍(AA)とも対立しています。パレッワの住民の多くはチン族に分類されるクミ族ですが、歴史的にラカイン族との関係も深く、独立時にチン特別区に編入されたという経緯があり、現在もその帰属を巡って緊張が続いています。

かつては弱小組織と見なされていたCNF/CNAですが、2021年のクーデター以降、他の民主派勢力との連携を深め、チン州における国軍への抵抗運動において重要な役割を果たす勢力へと変容を遂げています。

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