ツェサレーヴィチ (戦艦)

ツェサレーヴィチ (Цесаревич)

ツェサレーヴィチはロシア帝国海軍の前弩級戦艦で、フランスのラ・セーヌ造船所にて建造されました。その名前はロシア皇帝の世襲皇太子を指します。この艦は、当時のロシア海軍の戦力強化を図る中で誕生した重要な艦船です。

建造背景

1890年代後半、日本海軍が12インチ砲を装備した戦艦を導入したことから、ロシア帝国海軍は脅威を感じ、対抗策を必要としていました。当初はペレスヴェート級の10インチ砲戦艦で対応しようとしましたが、不十分と判断され、新型艦の建造が決定されました。ロシア海軍史上初めての12インチ砲を搭載するこの艦は、1898年に発注され、翌1899年には進水しました。この艦の設計を担当したのはフランスの造船士官、アントワーヌ・ジャン・アマブル・ラガヌでした。

艦形とデザイン

ツェサレーヴィチは特徴的な長船首楼型の船体を持ち、上部は強いタンブル・ホーム構造となっています。水線下部は艦首と艦尾が突出しており、甲板の面積は狭い設計となっています。このような形状は、火力の射範囲を広げるためや装甲を軽量化するための工夫でした。特筆すべきは、対魚雷用の装甲隔壁を世界で初めて持った戦艦であるため、装甲設計に新たな道を開いた存在でもあります。

艦首には衝角があり、艦首甲板には30.5cmの連装主砲塔が配置され、司令塔を備えた艦橋がその背後に立っています。円筒形のミリタリーマストは見張り台を設け、戦闘用の機関砲も配置しています。艦側には数基の副砲が設けられており、強力な火力を誇っていました。

武装

主砲としては「Pattern 1895 30.5cm」が採用され、その射程は14,640メートルにも及びます。砲塔には140発の弾薬を装填可能で、旋回や俯仰は主に電力で行います。副砲には「Pattern 1892 15.2cm」が搭載され、最大射程は11,520メートルです。また、対水雷艇用の7.5cm砲や近接戦闘用の4.7cm砲も搭載しており、全体的に高い火力を維持していました。

機関と性能

艦の機関は、ベルヴィール式水管缶20基による構成で、最大速力は16.78ノットに達しました。最大出力は16,500馬力で、航続能力も非常に高く、万が一の際も十分な戦闘持続時間を確保できる能力を持っていました。

艦歴

ツェサレーヴィチは1903年にロシア海軍に編入され、日露戦争に参加しました。1904年2月には旅順口攻撃で損傷を受け、その後も日本艦隊との戦闘に従事し、黄海海戦では大きなダメージを受けました。戦争後はバルト海艦隊に配属され、第一次世界大戦に参加しました。1917年のロシア革命を経て艦名が「グラジュダニーン」に改称され、その後も艦艇として活動を続けましたが、1922年に除籍され、1924年から1925年にかけて解体されました。

ツェサレーヴィチは、その設計と性能において時代の先を行った艦船であり、ロシアの軍事史においても重要な位置を占めた戦艦として知られています。

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