ツール・ド・フランス1999

1999年ツール・ド・フランス：ドーピング問題とアームストロングの凱旋

1999年のツール・ド・フランスは、86回目の大会として1999年7月3日から7月25日にかけて開催されました。全20ステージ、総距離3687kmに及ぶこの大会は、数々のドラマと波乱に満ちた、記憶に残るものとなりました。

前年のドーピングスキャンダルと主要選手の不在

この大会を特徴づけたのは、何と言っても前年からのドーピング問題の余波でした。EPO使用疑惑がささやかれる中、主要選手たちの多くが欠場という事態に。当時、ドーピングはフランスで犯罪とみなされていたため、山岳ステージが多いジロ・デ・イタリアに専念する選手も多く、ツール・ド・フランスは過去40年間で初めて、歴代優勝者が出場しない大会となりました。

中でも、マルコ・パンターニの不出場はその象徴でした。彼の赤血球数の上限値超過は大きな話題となり、ツールへの出場を断念せざるを得ませんでした。さらに、ローラン・ジャラベール、ミケーレ・バルトリ、フランチェスコ・カーザグランデ、オスカル・カーメンツィントといった強豪選手たちも、ドーピングスキャンダルへの関与、怪我、あるいは個人的な事情など様々な理由で欠場。この事態を皮肉って、「もはやツール・ド・ラブニール（未来のツール）」と揶揄する声も聞かれたほどでした。

しかし、この混沌とした状況の中で、新たな注目選手たちが登場します。ドーピングスキャンダルの当事者の一人であったリシャール・ビランクの出場が決定し、チーム移籍を経て出場が決まったアレックス・ツェーレ、そして癌からの生還を果たしたランス・アームストロングへの期待が高まりました。

アームストロングの活躍と波乱の展開

プロローグステージでは、アームストロングが勝利。死と隣り合わせだった状態からの復活劇は、大きな衝撃を与えました。続く第1ステージはヤーン・キルシプーが制し、マイヨ・ジョーヌ（黄色のジャージ）を獲得。第7ステージまでその座を守り抜く活躍を見せます。

しかし、第2ステージで事態は大きく変わります。80km地点のパサージュ・ド・ゴワで発生した大規模な集団落車により、集団が分断。有力選手たちが先頭集団と後方集団に散らばってしまいました。通常であれば、先頭集団は後方集団の合流を待つのが暗黙の了解ですが、今回は後方集団の追撃体制が整わず、先頭集団が攻撃を開始。アームストロングの所属するUSポスタルが中心となり、後方集団に6分以上の差をつけてゴールしました。この落車によって、アレックス・ツェーレ、クリストフ・リネロ、マイケル・ボーヘルト、イヴァン・ゴッティ、リック・フェルブルッヘといった優勝候補たちが早期に脱落することになります。

その後も、各ステージは激しいスプリント勝負が繰り広げられました。トム・ステールスが2勝、マリオ・チッポリーニが4区間連続優勝という快挙を達成する一方、エリック・ツァベルは落車や機械故障に見舞われ、勝利を掴むことができませんでした。

第8ステージの個人タイムトライアルではアームストロングがツェーレを制し、個人タイムトライアル世界チャンピオンのアブラハム・オラーノはコースアウトというアクシデントに見舞われました。前年総合3位のボビー・ジュリックも転倒による重傷でリタイアを余儀なくされます。

アルプス山脈に入る第9ステージでは、アームストロングが単独逃げ切りで勝利。キルシプーはリタイア、チッポリーニも落車によりリタイアするなど、波乱が続きました。続く第10ステージでは、グエリーニが観客との接触事故を起こしながらも逃げ切り勝ちを収めました。

ピレネー山脈での第15ステージでは、フェルナンド・エスカルティンが区間優勝し総合2位に浮上。アームストロングは初めて危機感を抱き、追撃を試みますが、ツェーレとビランクに遅れをとります。第16ステージではアームストロングがエスカルティンをマークし、ダビド・エチェバリアが区間優勝。第17ステージではトンコフが義父の死去によりリタイア。第18ステージはジャンパオロ・モンディーニが逃げ切り勝利しました。

第19ステージの個人タイムトライアルではアームストロングが再び勝利し、ツェーレが総合2位に浮上。最終第20ステージはロビー・マキュアンが制し、ツァベルはポイント賞を獲得しました。

最終的に、ランス・アームストロングが総合優勝を飾りました。彼の癌からの復活、そしてこのツール・ド・フランスでの圧倒的な勝利は、多くの人の記憶に刻まれた出来事となりました。この大会は、ドーピング問題という影と、アームストロングという光が織りなす、ドラマチックな物語だったと言えるでしょう。

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