ティグレ紛争

ティグレ紛争：エチオピアを揺るがした内戦の全貌

ティグレ紛争は、2020年11月3日にエチオピア北部のティグレ州で勃発し、2022年11月3日に停戦合意が成立するまで続いた内戦です。この紛争は、エチオピア国内だけでなく、隣接するエリトリアなど周辺国も巻き込み、深刻な人道危機を引き起こしました。経済的損失は287億ドルと見積もられ、一部の研究者は第二次世界大戦以来最悪の紛争とさえ表現しています。この紛争の背景、経過、そして影響について詳細に見ていきましょう。

紛争の背景

歴史的・政治的背景

ティグレ紛争は、エチオピアの政治構造と民族間の緊張という根深い問題に起因します。1974年から始まったエチオピア内戦で中心的な役割を果たしたティグレ人民解放戦線（TPLF）は、民族政党連合であるエチオピア人民革命民主戦線（EPRDF）内で大きな影響力を持っていました。1991年に内戦が終結し、EPRDFによる一党優位[[政党制]]が確立された後も、ティグレ人が政権の中枢を担い続けました。

アビィ・アハメドの台頭

2018年、アビィ・アハメドが首相に就任すると、中央集権化を進めるため、EPRDFの民族政党と一部の野党を統合し、繁栄党を新たに結成しました。しかし、これに反発したTPLFは新党への合流を拒否しました。TPLFは、2020年8月に予定されていた総選挙がCOVID-19パンデミックを理由に延期されたことを根拠に、アビィ政権の正当性を否定し、連邦政府との対立を深めていきました。

緊張の激化

2020年9月、TPLFは連邦政府の許可なくティグレ州議会選挙を強行し、連邦政府はこれを違法と宣言しました。アビィ政権は、選挙の民主化や腐敗したティグレ人官僚の摘発などを進めましたが、これにより連邦政府とTPLFの対立はさらに激化しました。また、アビィ首相は、TPLFと対立するエリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領との間で融和外交を進めたことも、緊張を煽る要因となりました。

紛争の経過

開戦と初期の戦闘

2020年11月3日、TPLFはエチオピア軍の基地を攻撃し、紛争が勃発しました。連邦政府はティグレ州への侵攻を開始し、11月28日には州都メケレを占領。「作戦終了」を宣言しました。しかし、TPLFはティグレ防衛軍（TDF）として再編され、ゲリラ戦を展開し、2021年6月28日にメケレを奪還しました。

TDFの反攻と膠着状態

2021年、TDFは他勢力と同盟を組み、首都アディスアベバへの進軍を試みましたが、連邦政府に反撃され、戦況は膠着状態に陥りました。TDFはティグレ州の広範囲を支配し、エチオピア軍は主要道路や都市部を支配しました。アムハラ州の部隊とエリトリア軍もそれぞれティグレ州の一部を支配しました。

停戦合意

2022年11月、アフリカ連合（AU）の仲介により、連邦政府とTPLFは停戦合意に達しました。これにより、2年間にわたる内戦は一時的に終結しました。

人道危機と戦争犯罪

深刻な人道危機

紛争は、一般市民に対する超法規的殺人をはじめ、深刻な人道危機を引き起こしました。少なくとも10,000人が死亡し、難民や国内避[[難民]]が多数発生しました。特にアディグラト、ハゲレ・セラム、ヒツァツ難民キャンプ、ヒメラ、マイ・カドル、デブレ・アベイ、アクスムなどで虐殺が相次ぎました。戦時性暴力も多発し、子どもや高齢者を含む多くの女性が強姦の被害に遭いました。

戦争犯罪

エチオピア連邦統一軍事戦線（UFEFCF）と連邦政府の両勢力、特にエチオピア国防軍（ENDF）、エリトリア防衛軍（EDF）、ティグレ防衛軍（TDF）は数多くの戦争犯罪を犯しました。市民への攻撃、虐殺、性暴力、人道支援物資の妨害などが報告されています。

停戦とその後

平和への動き

アフリカ連合（AU）などの仲介により、和平交渉が開始され、2022年11月に停戦合意に至りました。しかし、和平合意後もアムハラ州の民兵組織と政府軍との衝突が発生するなど、依然として不安定な状況が続いています。

紛争の影響

紛争は、ティグレ州で母体死亡率と乳児死亡率を上昇させ、医療インフラを破壊しました。また、エチオピアの経済にも大きな損害を与え、インフレーションを悪化させました。

エリトリア占領の継続

和平合意後も、エリトリア軍はティグレ州の一部を占領し続けており、人権侵害も報告されています。

各種機関におけるティグレ人に対する差別

紛争以来、ティグレ人に対する差別的な行動が各地で発生しています。ティグレ人の家は捜索され、銀行口座は凍結されるなどの人権侵害が報告されています。

各方面の反応

国内の反応

エチオピア国内では、紛争の終結を求める声や、人道支援を求める声が高まりました。また、民族間の対立が深まり、社会の分断が深刻化しました。

国際社会の反応

国際社会は、エチオピアでの人道危機を深く憂慮し、紛争の即時停止、人道支援の実施、そして平和的な解決を求めました。また、紛争に関与した勢力に対して制裁を行うなど、強い姿勢を示しました。

結論

ティグレ紛争は、エチオピア国内外に深刻な影響を与えた内戦であり、多くの命が失われ、多くの人々が苦しみました。停戦合意はなされたものの、紛争の根本的な原因が解決されたわけではありません。今後、エチオピアが真の平和と安定を取り戻すためには、民族間の対話と和解、そして人権尊重の徹底が不可欠です。この紛争の教訓を活かし、より平和で公正な社会を築くための努力を続ける必要があります。

もう一度検索