ティベリオス3世

ティベリオス3世：激動の時代を生きたビザンツ皇帝

ティベリオス3世、本名アプシマルは、7世紀末のビザンツ帝国において、短期間ながら皇帝として君臨した人物です。彼の出自や初期の経歴は不明な点が多く、その生涯は謎に包まれています。しかし、軍人として頭角を現し、混乱期の帝位簒奪を経て即位した彼の治世は、ビザンツ帝国の歴史において重要な一幕を担っています。

出自と初期の経歴

ティベリオス3世の出自については、出生名である「アプシマル」以外、ほとんど何もわかっていません。この名前の語源についても諸説あり、ゲルマン語、スラヴ語、テュルク語など、さまざまな民族との関連性が指摘されています。また、一部の歴史家は、彼がゴート系のギリシア人であった可能性も示唆しています。

軍人としては、キビュライオタイのドゥルンガリオス（将軍職の一つ）であったことが知られています。彼は、初期の軍事キャリアにおいてバルカン半島のスラヴ人に対する勝利を収め、一定の評判を得ていたと考えられています。

背景と即位まで

7世紀の地中海世界は、イスラーム勢力の台頭により大きく変動していました。ビザンツ帝国は、シリアやエジプトといった富裕な属州を失い、アラブ人勢力との攻防を繰り返していました。また、黒海北岸のブルガール人もバルカン半島へ移動し、ビザンツ帝国との間で紛争が絶えませんでした。

ティベリオスが活躍した時期は、ビザンツ帝国が「混乱の20年」と呼ばれる政治的に不安定な時代でした。皇帝と有力者たちの争いが絶えず、帝位の交代も頻繁に起こっていました。この混乱は、695年に皇帝ユスティニアノス2世がレオンティオスによって打倒されたことから始まり、その後、7人の皇帝が即位しました。

697年、アラブのウマイヤ朝がカルタゴを占領した際、皇帝レオンティオスはカルタゴ奪還のために軍を派遣しました。この遠征軍の一員であったアプシマルは、カルタゴ奪還に失敗した後、クレタ島へ撤退しました。しかし、レオンティオスの怒りを恐れた将兵たちは、アプシマルを皇帝に推戴し、彼はティベリオスを名乗って即位しました。そして、艦隊を率いてコンスタンティノープルへ進軍し、レオンティオスを退位させることに成功しました。

治世

即位後、ティベリオスは北アフリカの奪還よりも、東方におけるウマイヤ朝との軍事行動に力を注ぎました。彼の兄弟であるヘラクレイオスは、小アジアのテマ（軍管区）のモノストラテゴスに任命され、ウマイヤ朝への侵攻を指揮しました。ヘラクレイオスは、アンティオキアから派遣されたアラブ軍を破り、サモサタまで攻め込むなどの戦果を挙げました。しかし、これらの成功は、アラブ軍による一連の報復攻撃を引き起こしました。

ティベリオスは、軍の組織を再編し、コンスタンティノープルの海の城壁を修復するなど、国防の強化にも取り組みました。また、過疎化が進んでいたキプロスに注目し、ウマイヤ朝との交渉により、キュジコスに移されていた住民を故郷へ帰還させ、島の守備隊を強化しました。

ユスティニアノス2世による首都の奪還とティベリオスの処刑

しかし、ティベリオスの治世は長くは続きませんでした。705年、以前に退位させられたユスティニアノス2世が、ブルガリアからスラヴ人とブルガール人の軍隊を引き連れてコンスタンティノープルの前に現れました。ユスティニアノス2世は、古い水路を使って市内への侵入に成功し、ティベリオスはビテュニアへ逃れましたが、数か月後に捕らえられました。

706年2月、ユスティニアノス2世は、レオンティオスとティベリオスの両者を公衆の面前で辱めた後、処刑しました。彼らの遺体は海に投げ捨てられましたが、後に回収され、プロテ島の教会に埋葬されました。

評価

歴史家たちは、ティベリオスの治世について、その期間の短さから詳細な評価を下すことは難しいとしています。しかし、彼が有能な統治者であり、より長く統治していれば、ビザンツ帝国の偉大な皇帝の一人として記憶されていた可能性も指摘されています。

一方、北アフリカのビザンツ領の喪失については、ティベリオスに責任を帰する見解もありますが、彼が即位した時点で、ビザンツ帝国が北アフリカを回復することはすでに困難であったという意見もあります。

家族

ティベリオスには、テオドシオスという名前の息子がいました。このテオドシオスは、後にエフェソスの主教となり、皇帝レオン3世やコンスタンティノス5世に助言を行うなど、政治的にも重要な役割を担いました。また、一部の歴史家は、このテオドシオスが、後の皇帝テオドシオス3世と同一人物である可能性も指摘していますが、確証は得られていません。

ティベリオスの配偶者に関する記録は失われており、その詳細を知ることはできません。これは、ティベリオスの時代が、混乱の20年と呼ばれる大規模な変動期であったためと考えられています。

まとめ

ティベリオス3世は、激動の時代に翻弄され、短期間しか皇帝として君臨できませんでしたが、その治世はビザンツ帝国の歴史において重要な一幕を担っています。彼の出自や初期の経歴は謎に包まれていますが、軍人としての才能を発揮し、混乱期において帝国を率いた彼の生涯は、多くの歴史家によって研究されています。

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