テオドシウス (マウリキウスの息子)

テオドシウス：悲劇の共同皇帝、その生涯と伝説

テオドシウス（583年8月4日 – 602年11月27日以降）は、東ローマ帝国皇帝マウリキウスの長男であり、590年から602年まで共同皇帝として父帝を支えました。しかし、フォカス率いる軍の反乱により、その地位を失い、処刑されるという悲劇的な運命を辿ります。

生涯

テオドシウスは、マウリキウス帝と皇后コンスタンティナの間に生まれました。彼の誕生は、テオドシウス2世以来となる皇帝の息子として大きな祝福を受け、後の教皇グレゴリウス1世が名付け親を務めました。学者エヴァグリオス・スコラスティコスは、その誕生を祝う著作を著し、執政官の位を授けられました。

587年頃には「カエサル」に昇格し、父帝の後継者としての地位を確立。590年3月26日には共同皇帝となり、正式に帝位を分担しました。

602年2月には、元老院の有力者ゲルマーヌスの娘と結婚。しかし、同年秋にドナウ川国境地帯で発生した軍の反乱が、彼の運命を大きく変えます。

兵士たちは、寒冷地での越冬命令に不満を募らせ、フォカスをリーダーとして反乱を起こしました。テオドシウスと義父ゲルマーヌスは、反乱軍からの書状を受け取りましたが、マウリキウス帝は軍の要求を拒否。ゲルマーヌスの関与を疑い始めます。テオドシウスは、ゲルマーヌスに父帝の疑念を伝え、身を隠すよう助言しました。

11月22日、マウリキウス帝一家は反乱軍の進撃を恐れ、コンスタンティノープルからカルケドンへ逃亡。テオドシウスは、サーサーン朝ペルシア帝国のホスロー2世に援軍を求めるため派遣されましたが、途中でフォカスの部下たちに捕らえられ、処刑されました。その数日前には、父マウリキウス帝とその弟たちも処刑されていました。

生存説と偽テオドシウス

テオドシウスの処刑後、彼が実は生きているという噂が広まりました。義父ゲルマーヌスが、フォカスの支持者を買収してテオドシウスを救い、その後ラジカに逃亡したという説も存在します。同時代の歴史家テオフィラクトス・シモカテスは、これらの噂を調査し、誤りであると結論付けましたが、現代の歴史家ポール・スペックは、ヘラクレイオス朝後期になってから懐疑的な見方が強まったと指摘しています。

簒奪者フォカスに対抗した将軍ナルセスは、テオドシウスの生存説を利用し、偽のテオドシウスをホスロー2世に紹介しました。ホスロー2世は、マウリキウス帝とその家族の処刑に対する復讐と、正当な後継者であるテオドシウスの王位回復を大義名分に、東ローマ帝国に侵攻しました。フージスターン年代記によれば、偽テオドシウスはクテシフォンでネストリウス派総主教サブリショ1世からローマ皇帝として戴冠されたとされています。606年から607年にかけてのアルメニア侵攻にも同行し、その存在がテオドシオポリス（エルズルム）の守備軍を降伏させる要因となりました。

東ローマ帝国研究者のジェームズ・ハワード・ジョンストンは、テオドシウスが本物であった可能性を指摘しています。偽物説は東ローマ側のプロパガンダであり、603年のエデッサや608年のテオドシオポリスの人々が、皆偽者に騙されたとは考えにくいと主張しています。

硬貨

マウリキウス帝の硬貨には、テオドシウスが描かれることは稀でした。しかし、ケルソネソスで鋳造された銅貨には、テオドシウスとその両親が描かれています。また、カルタゴではシリカ銀貨が発行され、591年または592年に共同皇帝宣言を記念して発行されたと考えられています。カルタゴの貨幣鋳造所からは、皇帝としての正装をまとったテオドシウスを描いたソリドゥス金貨も一枚だけ出土しています。

テオドシウスは、共同皇帝として短い期間ながらも帝国の統治に携わりましたが、反乱と処刑、そして生存説といった様々な出来事に翻弄された人物でした。彼の生涯は、東ローマ帝国の動乱期を象徴する悲劇として、歴史に刻まれています。

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