テオドロ公国

テオドロ公国：クリミアの地に咲いた東ローマ帝国の末裔

テオドロ公国（ギリシア語: Θεοδόρο）は、12世紀から15世紀にかけてクリミア半島南西部に存在した、東ローマ帝国（ビザンツ帝国）の流れを汲む小国家です。ゴティアとも呼ばれ、首都はマングプに置かれました。初期にはコンスタンティノープル、後期にはトレビゾンド帝国の属国として存続し、一説にはコムネノス王朝に連なるガブラス家が建国したとされています。

地理と概要

テオドロ公国は、地理的にトレビゾンド帝国と近接しており、同盟関係を結んでいました。一方で、北方のジョチ・ウルスやクリミア・ハン国といった遊牧国家にも服属していました。15世紀には、首都マングプ、カラミタ、アヴリタを中心に、20以上の封建領地、100以上の村落、修道院などが存在し、繁栄を極めました。周辺には、クリミア・ハン国や、ジェノヴァ共和国の植民都市であるフェオドシヤやバラクラヴァがありました。

ジェノヴァとの交易は盛んでしたが、対立も頻発しました。1475年までには、領土内に3万戸の家があり、人口は20万人に達したと推定されています。

国教は東ローマ帝国と同じく正教会（ギリシャ正教）でした。8世紀にはコンスタンティノープル総主教区のゴティア管区が形成され、典礼には当初古代ゲルマン語が用いられていましたが、9世紀以降はギリシア語が用いられるようになりました。民衆の話し言葉はスラヴ語でしたが、民族間、文化間、宗教間のコミュニケーションには中世ギリシア語が広く用いられました。

歴史

建国

6世紀以降、テオドロ公国の領土には、要塞化された小規模な集落が点在するようになり、8世紀には"kastronov"と呼ばれる城が築かれました。これらの要塞が、後の国家建設の基盤となりました。840年頃には、ギリシア人、ゴート人、スラヴ人などが居住し、ゴート人の子孫と東ローマ帝国の移民がテオドロ公国を形成しました。

1204年のコンスタンティノープル占領後、トレビゾンド帝国が東ローマ帝国の海外植民地との繋がりを維持し、テオドロ公国もその影響下に入りました。この頃から、「海の向こう」を意味するペラシー（θέμα Περατείας）という名でも呼ばれるようになりました。

13世紀には、ペラティ・フェム公爵の一人が国家を建設し、テオドロ公国またはマンギュペ公国として知られるようになりました。ジェノヴァ語の文献では、トドロ、テオドロ、テドリなどと表記されています。

最盛期

1345年、ジェノヴァがチェンバロ（現在のバラクバラ）を植民地化し、テオドロ公国への足がかりを築きました。1365年には、ジェノヴァがスグダイア（スダク）とその周辺の村々をテオドロ公国から割譲させました。

1387年以降、ジェノヴァの領土はバラクラヴァからスダクまでの狭い海岸線となり、北はクリミア山脈に接しました。14世紀の90年代には、地震によって首都マングプが荒廃しました。

1402年に即位したアレクシオス1世コムネノス・ガブラス公は、ジェノヴァに対して強硬な態度を取り、1411年からジェノヴァに補償金を支払わせました。1422年には、テオドロ公国とジェノヴァの間で戦争が勃発し、テオドロ公国はジェノヴァの支配する都市や町を攻撃しました。

アレクセイ1世は、トレビゾンド帝国と同盟を結び、1429年には娘のマリアがトレビゾンド皇帝アレクセイ4世の息子ダヴィドと結婚しました。1425年には、長男ヨハネがパレオロゴス王朝の一員と結婚し、東ローマ帝国との関係を深めました。これにより、テオドロ公は東ローマ皇室の紋章である双頭の鷲を採用し、「テオドロとプリモリエの都市の所有者」と名乗るようになりました。

衰退と滅亡

1453年のコンスタンティノープル陥落後、東ローマ帝国系の国家は衰退の一途を辿りました。1461年まではトレビゾンド帝国が、その後はテオドロ公国がその正当な後継者とみなされました。

1472年、イサキオス公の姪マリアがモルドバの領主ステファノスと結婚しました。しかし、オスマン帝国のメフメト2世は、新たな十字軍の動きを警戒していました。

1475年、オスマン帝国がクリミア半島に侵攻し、首都マングプを包囲しました。テオドロ公国軍は奮戦しましたが、同年12月にマングプは陥落し、最後の君主アレクサンドロス公は処刑されました。

その後

テオドロ公国の領土はオスマン帝国の領土となり、一部はクリミア・ハン国の属国となりました。オスマン帝国の支配下でも、ギリシア人やクリミア・ゴート人は信仰を守り続けました。

王家の一族はモスクワに移住し、ロシア貴族のゴールロウィン家となりました。彼らはロシア帝国で高位の地位に就き、多くの土地を領有しました。

テオドロ公国は短命な国家でしたが、東ローマ帝国の文化と伝統をクリミアの地に伝え、その末裔はロシアの歴史にも名を残しました。

歴代君主

テオドロス1世・ガブラス
テオドロス2世・ガブラス
デメトリオス・ガブラス
バシレイオス・ガブラス
ステファノス・ガブラス
アレクシオス1世・コムネノス・ガブラス
アレクシオス2世・コムネノス・ガブラス
ヨハネス・ガブラス
イサキオス・ガブラス
アレクサンドロス・ガブラス

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