テオブロミン:カカオに含まれるアルカロイド
テオブロミンは、カカオ、
茶、コーラなどに含まれる
アルカロイドの一種です。プリン塩基と似た構造を持ち、その名はカカオの学名
Theobroma に由来します。
Theobroma はギリシャ語で「神の食べ物」を意味しますが、テオブロミン自身は
臭素を含みません。別名としてxantheoseも用いられます。
歴史と発見
テオブロミンは
1878年にカカオの種子から初めて単離されました。その後、
エミール・フィッシャーによって
キサンチンからの合成法が確立されました。この発見は、テオブロミンの化学的性質や薬理作用の解明に大きく貢献しました。
構造と性質
テオブロミンは
キサンチンの誘導体であり、
メチル基が特定の位置に結合した構造をしています。
カフェインや
テオフィリンと構造が類似しており、これらは互いに位置異性体の関係にあります。テオブロミンは水に溶けにくい結晶性の白色または無色の粉末です。
テオブロミンの存在源
テオブロミンは様々な植物に天然に含まれます。特に多く含まれる植物としては、カカオ、
マテ[[茶]]、
茶、コーラ、ガラナ、コーヒーなどが挙げられます。カカオ加工品である
ココアや
チョコレートにもテオブロミンは含まれており、その含有量は
チョコレートの種類によって異なりますが、一般的に0.5~2.7%程度です。
さらに、
カフェインを摂取した動物の体内でもテオブロミンが生成されます。ヒトの場合、
肝臓の酵素による
カフェインの代謝過程で、約10%がテオブロミンに変化することが知られています。
治療への利用の歴史
テオブロミンは、歴史的に様々な疾患の治療に用いられてきました。1916年の医学書『Principles of Medical Treatment』では、
浮腫や
梅毒の治療薬として記載されています。また、
動脈硬化症、
狭心症、高血圧などの循環器系疾患の治療にも用いられていたとの記録があります。近年では、血管拡張薬、
中枢神経刺激薬、
利尿薬としても利用されていましたが、現在では医薬品として使用されていません。
薬理作用と代謝
テオブロミンは、ヒトの
肝臓で代謝され、最終的にメチル尿酸に分解されます。その作用機序としては、
環状アデノシン一リン酸(cAMP)のホスホジエステラーゼ阻害作用が挙げられます。cAMPは細胞内シグナル伝達において重要な役割を果たす物質であり、テオブロミンによるホスホジエステラーゼの阻害は、cAMPの分解を抑制し、その結果として覚醒作用などの効果が現れると考えられています。
テオブロミンの効果
ヒトへの効果
ヒトへの効果としては、血管拡張作用、利尿作用、中枢神経刺激作用などが知られています。大量摂取(0.8~1.5g/日)では、発汗、震え、頭痛などの症状が現れる可能性があります。しかし、通常の摂取量ではこのような症状はほとんど問題になりません。
動物への影響
犬や猫、鳥類などでは、ヒトと比べてテオブロミンの代謝速度が遅いため、
チョコレートの摂取によって中毒症状が現れることがあります。小型犬の場合、50g程度の
チョコレート摂取で中毒症状が現れる可能性があり、重症化すると死に至ることもあります。
遺伝子への影響
テオブロミンは、試験管内実験では遺伝子変異を誘発することが示されています。しかし、食物からの経口摂取では、ヒトにおいて遺伝子変異を引き起こす証拠は十分ではありません。
まとめ
テオブロミンは、カカオなどに含まれる
アルカロイドで、様々な薬理作用を持つ物質です。歴史的には医薬品として利用されていましたが、現在では主に食品成分として知られています。ヒトへの影響は通常摂取量では軽微ですが、動物への影響は大きく、特に犬猫などのペットへの摂取には注意が必要です。 今後の研究により、テオブロミンの更なる作用機序や安全性に関する知見が得られることが期待されます。