テスピアイ

古代ギリシア、ボイオティア地方に位置したポリス、テスピアイは、ヘリコーン山の麓近く、東へテーバイへと続く丘陵地帯を見下ろす平地に開けた都市でした。

信仰と文化

古代の旅行家パウサニアスが記すように、テスピアイで特に深く崇拝された神はエロスでした。太古の時代には、未加工の石がその神の象徴とされていましたが、都市には多くの優れた美術品が数多く存在しました。中でも特筆すべきは、古代世界で最も有名な彫刻の一つとされる、プラクシテレスによる『エロス』像です。この像は多くの人々をテスピアイへと巡礼させたほどであり、その美しさが偲ばれます。後にローマ皇帝カリグラによってローマに持ち出され、クラウディウス帝の時代に一時返還されたものの、再びネロ帝によって持ち去られるという歴史をたどりました。他にも、リュシッポスによるブロンズ製のエロス像もテスピアイにありました。また、テスピアイの人々はムーサたちをも崇拝しており、ヘリコーン山の聖なる森では、彼女たちを讃える盛大な祭りが催されていました。

遺跡

現在も、古代の砦であったとされる楕円形の廃墟が残っています。堅固で整然と築かれたその砦跡の東西には、かつての都市の範囲を示す基礎構造が見られます。1882年には、レウクトラ村へ続く道沿いで、巨大な石のライオン像を含む墓所遺跡が発掘されました。この墓は紀元前5世紀に造られたもので、おそらくプラタイアの戦いで戦死したテスピアイの兵士たちのためのものと考えられています。なお、紀元前480年のテルモピュライの戦いで命を落としたテスピアイ兵は、戦場で埋葬されています。

歴史：テーバイとの関係

テスピアイの歴史は、主に隣接する大都市テーバイとの敵対関係によって特徴づけられます。紀元前480年に始まったアケメネス朝ペルシアの第二次ペルシア戦争におけるギリシア侵攻に際し、テスピアイはボイオティア地方で数少ない、時の盟主テーバイの親ペルシア的な方針に抗ったポリスでした。テルモピュライの戦いでは、テスピアイから派遣された700人の兵が、スパルタ王レオニダス1世率いる部隊とともに最後まで戦い抜き、壮烈な玉砕を遂げています。都市はペルシア軍によって焼き払われたものの、生き残ったテスピアイの人々は、翌年のプラタイアの戦いにおいて、ギリシア連合軍に1,800人の兵力をもって貢献しました。

ペロポネソス戦争中の紀元前424年には、アテナイによるボイオティア侵攻の際、デリオンの戦いにおいてボイオティア勢を支援したテスピアイの部隊は多大な犠牲を払いました。この一時的な衰退に乗じる形で、翌年にはテーバイがテスピアイに干渉し、隣国アテナイへの接近を非難して城壁を取り壊しました。テーバイはさらに紀元前414年にも、テスピアイにおける民主主義勢力の台頭を阻止するために介入しています。コリントス戦争では、テスピアイはスパルタ側に立ち、紀元前379年から紀元前372年にかけては、スパルタ軍によるテーバイ攻撃のための重要な拠点としての役割を果たしました。しかし、紀元前372年にテーバイに降伏せざるを得なくなり、翌年のレウクトラの戦いでは、テーバイ側の陣営に加わることを強いられました。おそらくその戦いの直後、テーバイは自らの優位を利用してテスピアイを破壊し、住民を追放したと見られています。都市が再建されるまでには数年を要しました。

末期の歴史と「Thespians」

紀元前171年、テスピアイはテーバイに対する敵対政策を共有する共和政ローマに接近しました。その後のテスピアイについては、古代の地理学者ストラボンが「かなりの規模の都市」と記し、大プリニウスは「自由都市」であったと述べています。

なお、現代で俳優を意味する「thespian」という言葉は、テスピアイの市民を指す言葉と同じ形をしていますが、これはこの都市自体に由来するものではなく、古代ギリシアの伝説上の最初の俳優とされるテスピスにちなんだものです。

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