テトラサイクリン

テトラサイクリンは、テトラサイクリン系に分類される重要な抗菌薬の一つです。これは数種の放線菌によって自然に産生される広範囲スペクトルの抗生物質であり、多様な細菌感染症の治療に用いられています。日本では、主に内服薬が「アクロマイシンVカプセル」、軟膏が「アクロマイシン」という製品名でサンファーマ株式会社から供給されています。その物理的性質としては、黄色い結晶であり、特有の匂いはありません。塩酸塩として提供される場合は、黄色い結晶性の粉末状を呈します。

薬理作用

テトラサイクリンの抗菌作用は、細菌が生命活動に必要なタンパク質を合成する過程を妨げることによって発揮されます。具体的には、細菌のリボソームのうち30Sサブユニットと呼ばれる部位に結合し、これによりタンパク質合成の初期段階で必要となる複合体の形成を阻害します。これにより、細菌の増殖が抑制されます。

動物実験では、心臓機能の抑制、腸管運動の変化、血管の収縮、血圧や呼吸への影響、さらには中枢神経系への作用などが確認されており、本薬剤が多様な生体機能に影響を及ぼす可能性が示唆されています。

抗菌スペクトルと適応症

テトラサイクリンは、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方を含む非常に幅広い種類の細菌に対して有効性を示します。具体的には、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属といったグラム陽性菌に加え、淋菌、大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、軟性下疳菌、百日咳菌、ブルセラ属、野兎病菌、ガス壊疽菌群といったグラム陰性菌にも効果があります。また、一般的な細菌とは異なる病原体である回帰熱ボレリア、ワイル病レプトスピラ、リケッチア属やクラミジア属、さらには肺炎マイコプラズマ（マイコプラズマ・ニューモニエ）に対しても有効です。

これらの幅広い抗菌スペクトルに基づき、テトラサイクリンは以下のような多様な感染症の治療に適用されます。

• - 表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、乳腺炎（皮膚・軟部組織感染症）
• - 骨髄炎（骨髄感染症）
• - 咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染（呼吸器感染症）
• - 膀胱炎、腎盂腎炎、尿道炎、淋菌感染症、軟性下疳、性病性（鼠径）リンパ肉芽腫（泌尿器・性感染症）
• - 子宮内感染（婦人科感染症）
• - 脳膿瘍
• - 涙嚢炎、外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎（眼科・耳鼻科領域）
• - 歯周組織炎（歯科領域）
• - 猩紅熱、炭疽、ブルセラ症、百日咳、野兎病、ガス壊疽、回帰熱、ワイル病、発疹チフス、発疹熱、つつが虫病（全身性感染症など）

このように、テトラサイクリンは多岐にわたる細菌、リケッチア、クラミジア、マイコプラズマなどによる感染症に対して重要な治療薬として用いられています。

副作用と使用上の注意

テトラサイクリンの使用に際しては、いくつかの副作用や注意点があります。比較的多く見られる副作用としては、腸内細菌叢のバランスが崩れることによる菌交代症、吐き気や下痢といった胃腸障害、そして光線過敏症（日光に当たると皮膚が過敏に反応する）などが挙げられます。

長期間にわたってテトラサイクリンを使用する場合、消化管への影響に加え、体内でビタミンKやビタミンB群が不足する可能性があり、注意が必要です。また、薬剤が時間と共に変質したテトラサイクリンを誤って使用した場合、腎臓の機能障害を引き起こすファンコーニ症候群の原因となることが知られています。

特に重要な注意点として、かつて乳幼児や小児期にテトラサイクリンを投与すると、歯のエナメル質に色素が沈着し、歯が黄色くなる「歯牙黄染」を引き起こすことが問題視され、これらの年齢層では原則として禁忌とされていました。しかしながら、近年、関連する別のテトラサイクリン系薬剤（ドキシサイクリン）に関する研究において、歯牙黄染のリスクが従来の懸念ほど高くない可能性が示唆されており、テトラサイクリンの添付文書におけるこの記載について、見直しが提言される動きも見られます。（ただし、これはテトラサイクリン本体ではなく、関連薬剤の報告に基づくものである点には留意が必要です。）

関連情報

テトラサイクリン系抗菌薬には、テトラサイクリンの他にもクロルテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、チゲサイクリンなど、複数の種類が存在し、それぞれ特性が異なります。

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