テフラ

テフラとは



テフラ(tephra)は、火山噴火によって放出される火山噴出物の総称で、火山軽石スコリア火砕流堆積物、火砕サージ堆積物などが含まれます。アイスランド地質学者シグルズール・ソラリンソンによって定義されました。テフラは、噴火した火山の特定や噴火規模の推定、地層の年代測定に利用され、地質学、考古学古生物学など幅広い分野で重要な役割を果たしています。

テフラの定義



テフラは、火山砕屑物とほぼ同義ですが、一般的にはある程度広範囲に分布するものを指します。狭義には降下したものを指す場合もありますが、学者によって定義に差違があり、降下物に限る、火砕流堆積物を含む(ただし溶結したものを除く)、溶結・非溶結を問わずすべてを含むなど、曖昧な部分もあります。

テフラの成因と呼称



火山噴火すると、噴煙の中に様々な大きさの粒子が含まれます。噴煙は噴出の勢いや風によって広がり、粒子は広い範囲に降下しますが、大きい粒子火口近くに、小さい粒子は遠くに落ちる傾向があります。日本では偏西風の影響で、高度12,000m以上に噴出した場合は東方向に広域テフラが分布しやすいですが、実際には5,000m以下の風向きの影響も受けます。また、30,000mを超える噴煙柱の場合は、風上側にも堆積することがあります。

同一の噴火でできた粒子は、大きさの変化が連続的であり、噴煙柱の一部が崩壊して火砕流が発生することもあるため、粒子の大きさだけで分類することは本質的な意味を持ちません。そのため、同時にできた様々な火山砕屑物をまとめて扱う方が、火山噴火史や周辺の地質を調べる上で合理的であり、総称してテフラと呼ばれるようになりました。

広域テフラ



特に大規模な噴火の場合、火山軽石が広範囲に降り積もり、日本全国を覆うほどの規模になることがあります。このような降下テフラを広域テフラと呼び、地質年代の基準として重要です。広域の定義は研究者によって異なります。

広域テフラを形成する噴火


広域テフラを形成する噴火には、主に2つのタイプがあります。

陥没カルデラを形成する大噴火: カルデラ周辺に火砕流堆積物が広範囲に形成されるとともに、微細な粒子が上空に吹き上げられ、広い範囲に降り積もります。
大規模なプリニー式[[噴火]]: カルデラを形成しない場合でも、噴出物の量が非常に多く、上空まで吹き上げられると、偏西風によって広範囲に降り積もります。火砕流を伴わないこともあります。

日本の代表的な広域テフラ



以下に日本の代表的な広域テフラを、テフラ名、対応する火砕流、記号、噴出源、年代の順に示します。

白頭山-苫小牧:B-Tm:白頭山:AD946年
アカホヤ(幸屋火砕流):K-Ah, AK:鬼界カルデラ:7,300年前
姶良丹沢(入戸[[火砕流]]):AT:姶良カルデラ:3万年前
支笏第1:Spfa-1:支笏カルデラ:4.6万年前
大山倉吉軽石:DKP:大山:5.5万年前
Aso-4: Aso-4:阿蘇カルデラ:約8.7万年前
鬼界-葛原(長瀬火砕流):K-Tz:鬼界カルデラ:9.5万年前
御嶽第1:Pm-1:御嶽山:10万年前
阿多:Ata:阿多カルデラ :10.8万年前
洞爺:Toya:洞爺カルデラ:10.9万年前
白尾層(湯川テフラ5):Byk-E:古御嶽:約77万4千年前 - 松山‐ブリュンヌ逆転の直下にあり地磁気逆転の証拠を提供する鍵層であることから、チバニアン(774 - 129ka)開始の基準となった層。
アズキ火山(今市火砕流):猪牟田カルデラ:90万年前
ピンク火山(耶馬渓火砕流):猪牟田カルデラ:100万年前
恵比須峠-福田:Kd38:穂高:175万年前 - カラブリアン(中期更新世)とジェラシアン(前期更新世)の境界付近。

テフロクロノロジー



ソラリンソンは、1944年にヘクラ山での研究を通して、火山による地層の対比や編年の方法を提唱しました。テフラは短期間に広範囲の地層に痕跡を残す性質があるため、年代測定で噴出時期を求めたテフラを編年の基準(鍵層)とし、各地の層序を共通の広域テフラによって結び付けていく研究は、テフロクロノロジーとして発展しました。

テフラの利用



テフラの研究成果は、噴出元の火山噴火史を解明するだけでなく、考古学古生物学、地史学といった地質時代の研究にも広く利用されています。特に、広域テフラは地層の年代を特定するための重要な指標となり、過去の地球環境変動を理解する上で欠かせない情報を提供しています。


参考資料



町田洋、新井房夫『新編火山アトラス - 日本列島とその周辺』東京大学出版会、2003年9月。
町田洋、「テフラと日本考古学-考古学研究と関係するテフラのカタログ-」『古文化財に関する保存科学と人文 自然科学』-総括報告書-、865 - 928、1984

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