テル・ブラク

テル・ブラク：古代オリエントを代表する都市遺跡

テル・ブラク（Tell Brak）は、現在のシリア北東部にある、紀元前6000年頃から紀元前14世紀頃まで続いた古代都市国家の遺跡です。古代ではナガル（Nagar）と呼ばれ、ハブール川沿いに位置するこの遺跡は、新石器時代後期からシュメール・アッカド時代、そしてフルリ人のミタンニ王国時代に至るまで、長きにわたって繁栄を続けました。40メートルにも達するテル（遺丘）は、中東でも最大級の規模を誇り、その広さは東西約1キロメートルに及ぶと推定されています。

発展と繁栄：ウルク期からミタンニ王国時代まで

テル・ブラクの都市としての形成は、紀元前4千年紀初期、メソポタミア南部ウルクと同時期、あるいはそれよりやや早い時期に始まったと推測されます。発掘調査からは、新石器時代後期のハラフ文化やウバイド文化の遺物、そしてウルク時代の遺物が多数出土しており、初期の段階から高度な文明が築かれていたことがわかります。特に注目すべきは、ウルクIV層から発見された「職業リスト」などの書記養成のための教科書です。これらの文書は、紀元前3千年紀のメソポタミアからシリアにかけて広く行われていた標準化された書記養成システムの一部をなしており、テル・ブラクが当時、高度な知識と文化の中心地であったことを示唆しています。

紀元前3千年紀には、ナガルはレバント諸都市やアナトリア、メソポタミア北部を結ぶ重要な交易拠点として機能していました。楔形文字文書からは、広範な交易ネットワークの存在が明らかになっています。1998年の調査で発見された紀元前2400年頃に焼失した神殿は、中部メソポタミア以北では最古級のものであり、当時の宗教的・政治的中心としての地位を物語っています。この時代、ナガルはアッカド文化圏の辺縁に位置しながらも、アッカド帝国北部の行政中心地としての役割も担っていました。ナラム・シン王の宮殿兼倉庫跡は、アッカド人の政治的支配というよりは、貢物や農産物の集積拠点としての機能を示唆しています。

紀元前2千年紀に入ると、テル・ブラクはアッ[[シリア]]、マリ、エシュヌンナといった勢力による支配争いの舞台となりました。マリ王ヤフドゥン・リムがアッ[[シリア]]のシャムシ・アダド1世をナガル城門前で破ったという記録も残されています。その後、フルリ人が台頭し、ミタンニ王国が成立すると、テル・ブラクはミタンニ王国の支配下に置かれました。発掘調査では、青銅器時代後期の宮殿やミタンニ時代の神殿跡も発見されており、この時代の繁栄の様子が垣間見えます。

発掘調査と発見：古代都市の姿を明らかにする

テル・ブラクの発掘調査は、マックス・マローワン卿による1930年代の調査に始まり、1970年代後半からはオーツ夫妻によって継続的に行われています。これまでに、紀元前4千年紀後半の「眼の神殿」や、紀元前3800年頃の集団墓地など、多くの貴重な遺物が発見されています。「眼の神殿」からは、数百個の「眼の偶像」と呼ばれる小さな像が出土しており、当時の宗教観や芸術様式を知る上で重要な資料となっています。また、絵文字で家畜の種類と数が記された粘土板も発見され、初期の文字体系の研究にも貢献しています。紀元前3700年頃の住居跡からは、ドーム状のかまどのある長方形の中庭が発見され、一族や集団の集会に使われたと考えられています。また、馬が導入される以前のナガルでは、ロバとアジアノロバを掛け合わせた雑種ロバの生産が盛んで、各地に輸出されていたようです。

テル・ブラク遺跡からの発見は、古代オリエント社会の政治、経済、宗教、文化などを多角的に理解するために、極めて重要な役割を果たしています。今後の発掘調査によって、さらに多くの謎が解き明かされることが期待されます。

もう一度検索