ハブール川

ハブール川：古代文明を育んだ肥沃な川

ハブール川は、トルコ南東部の丘陵地帯に源を発し、シリア領内を南へ流れ、ユーフラテス川に合流する川です。複数の名前で呼ばれており、アラム語、クルド語、アラビア語など、地域によって異なる呼び名があります。

地理的特徴

ユーフラテス川の主要な支流の一つであり、西を並行して流れるバリフ川とは対照的に、年間を通して水量が少ないのが特徴です。多くの支流を持ちますが、それらのほとんどは一年の中で水が涸れるワジ（涸れ川）となります。上流域はトルコ南東部の山地からジャズィーラの平原に挟まれた地域で、メソポタミア南部よりも降水量が多く、肥沃な農地が広がっています。

歴史

ハブール川流域は、世界最古級の都市であるハモウカルをはじめ、テル・ハラフ、テル・ブラクなど、新石器時代に遡る重要な考古学遺跡が点在する地域です。この地はコムギなどの穀物の採集が始まった場所であり、後にレバント地方での栽培、メソポタミア南部での灌漑農業へと発展しました。紀元前2千年紀前半の遺跡から見つかる彩色陶器は「ハブール土器」と呼ばれ、この地域を拠点としたフルリ人の国家、特にミタンニ王国の存在を示しています。古代の記録では、「カボラス川」として登場し、旧約聖書にもイスラエル王国の民が捕囚として移住させられた地として記述されています。

ハブール川計画と現代

1960年代に始まったハブール川計画により、多くのダムや灌漑用運河が建設されました。これにより、流域は16,000平方kmに及ぶ肥沃な農村地帯となり、特にシリアにおいては主要な小麦生産地帯となっています。また、カーミシュリー付近はシリアの石油生産の中心地でもあります。しかし、ダム建設による遺丘の水没など、文化遺産の保護との両立が課題となっています。

ハブール川は、古代文明の繁栄を支えた重要な川であると同時に、現代においても農業や資源の面で重要な役割を果たしています。しかし、その開発と保全のバランスをどのように取るかが、今後の課題となっています。

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