テン・ベスト・エンジン

アメリカの自動車産業界で影響力のある雑誌「Ward's AutoWorld」は、1994年以来毎年、「テン・ベスト・エンジン」（Ward's 10 Best Engines）として、その年に北米市場で販売される量販車種に搭載されたパワートレインの中から、特に優秀な10基を選出しています。

この賞の目的は、単に最高出力や最先端技術を持つエンジンを選ぶことではなく、性能、燃費効率、排出ガス性能、静粛性、そしてコストパフォーマンスなどを総合的に評価し、一般の消費者が手にしやすい価格帯の車両に搭載されている優れたパワートレインを表彰することにあります。選考対象は、高価格帯や特殊なモデルを除く量販車に限定されており、例えば2006年の選出では、車両本体価格が54,000ドル以下という具体的な基準が適用されました。これは、日常的に使用される自動車の技術レベル向上を評価する姿勢を示しています。

テン・ベスト・エンジンの選出リストを振り返ると、自動車技術の進化や市場のトレンドが色濃く反映されていることが分かります。長年にわたりガソリンエンジンが多数を占めてきましたが、近年ではクリーンディーゼルエンジン、ガソリンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステム、そして電気自動車用の強力なモーターや燃料電池システムといった、多様な形式のパワートレインが選ばれるようになりました。エンジンの構造においても、直列やV型といった一般的な形式に加え、マツダのロータリーエンジン、スバルの水平対向エンジンなども過去に選出されており、個性的な技術も評価の対象となっています。

特に歴史に名を刻んでいるのが、日産自動車のVQエンジンシリーズです。1995年に初めて選出されて以来、2008年まで14年連続でテン・ベスト入りを果たしました。これは、同賞における単一エンジン系列の連続受賞記録としては前例がなく、VQエンジンが長期間にわたり高いレベルの性能と品質を維持し、世界の第一線で戦える実力を持っていたことの証と言えるでしょう。

以下に、近年のテン・ベスト・エンジン選出リストの一部を抜粋して紹介します。

2016年
BMW 3.0L 直列6気筒 DOHCターボ
クライスラー 3.0L V型6気筒 DOHC ディーゼル
フォード 5.2L V型8気筒 DOHC
ゼネラルモーターズ 3.6L V型6気筒 DOHC
ゼネラルモーターズ 1.5L 直列4気筒 DOHC / 120kw モーター (ハイブリッド)
ヒュンダイ 2.0L 直列4気筒 / 50kw モーター (ハイブリッド)
日産 3.5L V型6気筒 DOHC
スバル 2.0L 水平対向4気筒 DOHC ターボ
トヨタ 1.8L 直列4気筒 DOHC + モーター (ハイブリッド)
ボルボ 2.0L 直列4気筒 DOHC ターボ
2015年
BMW 127 kW (170 PS) 同期電動機 (電気自動車)
BMW 1.5L 直列3気筒 DOHCターボ
クライスラー 6.2L V型8気筒 OHV
クライスラー 3.0L V型6気筒 DOHC ディーゼル
フォード 1.0L 直列3気筒 DOHCターボ
ゼネラルモーターズ 6.2L V型8気筒 DOHC
ヒュンダイ 100 kW (134 hp) 水素燃料電池システム
スバル 2.0L 水平対向4気筒 DOHC ターボ
フォルクスワーゲン 1.8L 直列4気筒 DOHC ターボ
ボルボ 2.0L 直列4気筒 DOHC
2014年
アウディ 3.0L V型6気筒 DOHCスーパーチャージャー
BMW 3.0L 直列6気筒 DOHCターボ ディーゼル
クライスラー 3.0L V型6気筒 DOHC ディーゼル
フィアット 83 kW (111 hp) 同期電動機 (電気自動車)
フォード 1.0L 直列3気筒 DOHCターボ
ゼネラルモーターズ 2.0L 直列4気筒 DOHC 直噴ターボディーゼル
ゼネラルモーターズ 6.2L V型8気筒 DOHC
ホンダ 3.5L V型6気筒 OHC
ポルシェ 2.7L 水平対向6気筒 DOHC
* フォルクスワーゲン 1.8L 直列4気筒 DOHC ターボ

このリストからも分かるように、小排気量ターボから大排気量V8、そしてハイブリッドや電気モーターまで、その年に技術的に優位性を示した様々な形式のパワートレインが選出されています。

テン・ベスト・エンジンは、自動車メーカー間の技術開発競争を促進する一方で、消費者にとっては優れた性能や環境性能を持つ車両を選ぶ上での重要な参考情報を提供しています。毎年発表されるリストは、その時代の自動車技術の潮流を理解する上で興味深い資料となっています。

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