デキストロメトルファン

デキストロメトルファン（DXM）について

デキストロメトルファン（Dextromethorphan, DXM）は、鎮咳薬として用いられるモルフィナン系の化合物です。一般的には「メジコン」という商品名で知られており、市販の風邪薬や咳止めにも含まれています。医療用としては、錠剤、散剤、シロップ剤など様々な剤形が存在します。DXMは、単なる咳止めにとどまらず、その複雑な作用機序から、様々な医療分野での応用が研究されています。

DXMの作用機序

DXMは、単一の作用機序を持つ薬物ではありません。主な作用としては、以下の点が挙げられます。

セロトニン再取り込み阻害: セロトニンの再取り込みを阻害することで、神経間のセロトニン濃度を高めます。
σ1受容体作動: σ1受容体のアゴニストとして作用し、神経伝達に影響を与えます。
NMDA受容体阻害: グルタミン酸受容体であるNMDA受容体を阻害します。特に代謝産物であるデキストロルファン（DXO）は、より強力なNMDA受容体阻害作用を示します。

これらの作用が組み合わさることで、鎮咳効果だけでなく、鎮静作用や解離作用も発現します。

医療におけるDXMの応用

日本の医療現場では、DXMは主に以下の症状の緩和に用いられます。

咳嗽: 感冒、気管支炎、肺炎など、様々な原因による咳の症状を和らげます。
情動調節障害（PBA）: 米国では、DXMとキニジンの配合剤が、情動調節障害の治療薬として承認されています。

また、最近の研究では、DXMが糖尿病患者の食後血糖値の低下に関与している可能性も示唆されています。

副作用と注意点

DXMは、適切に使用すれば安全な薬物ですが、過剰摂取や他の薬物との併用には注意が必要です。主な副作用として、以下の点が挙げられます。

重大な副作用: 呼吸抑制、ショック、アナフィラキシー様症状
一般的な副作用: 発疹、眠気、頭痛、めまい、吐き気、便秘など
過量投与時の症状: 幻覚、解離、錯乱、興奮、痙攣、意識消失など

特に、モノアミン酸化酵素阻害薬（MAOI）や選択的セロトニン再取り込み阻害薬（SSRI）との併用は、セロトニン症候群を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

また、グレープフルーツなどのフラノクマリン類を含む食品との同時摂取は、DXMの血中濃度を高め、作用を増強させる可能性があります。

薬物動態と代謝

DXMは、経口投与後、速やかに消化管から吸収され、肝臓で代謝されます。主な代謝経路は、CYP2D6によるO-脱メチル化と、CYP3A4によるN-脱メチル化です。

CYP2D6の遺伝子多型により、DXMの代謝能力には個人差があります。CYP2D6の活性が低い人は、DXMの作用が強く、長く続く可能性があります。

乱用と依存

DXMは、娯楽目的で乱用されることがあります。特に、高用量を摂取すると、幻覚や解離感を引き起こすため、若年層の間で問題となっています。精神的な依存は報告されていますが、身体的な依存は低いと考えられています。

歴史的背景

DXMは、1950年代に鎮咳薬として導入されました。当初はコデインの代替薬として期待されましたが、乱用の問題が浮上し、一時期は販売が規制されました。しかし、近年、インターネットを通じて情報が広まり、再び乱用が問題視されています。

インドネシアでは、DXM単剤の販売が禁止されており、その理由はマリファナやヘロインなどの代替薬として乱用される事例が多く、危険な薬物とみなされているためです。

日本では、塩野義製薬が「メジコン」として販売していましたが、特許切れ後、後発医薬品メーカーも参入しました。しかし、近年、後発医薬品メーカーの不祥事が相次ぎ、供給が不安定になっています。

まとめ

デキストロメトルファン（DXM）は、鎮咳薬として広く用いられる薬物ですが、その作用機序は複雑で、様々な副作用や相互作用の可能性があります。医療用として使用する場合は、医師や薬剤師の指示に従い、適切に使用することが重要です。また、乱用は非常に危険であり、絶対に避けるべきです。

参考画像

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関連項目

コデイン
ジヒドロコデイン
オキシメテバノール
モルヒネ
デキストロメトルファンの娯楽的使用

出典

U.S. National Library of Medicine: Drug Information Portal - Dextromethorphan
* Nuedexta (dextromethorphan hydrobromide and quinidine sulfate): Prescribing Information (Original Approval Date FDA: October 29, 2010)

外部リンク

U.S. National Library of Medicine: Drug Information Portal - Dextromethorphan

Nuedexta (dextromethorphan hydrobromide and quinidine sulfate): Prescribing Information

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