デンカオセーン・カオウィチット

デンカオセーン・カオウィチット（泰: เด่นเก้าแสน เก้าวิชิต、英: Denkaosan Kaovichit、1976年 8月23日 - ）は、タイの元プロボクサー。WBA世界フライ級王者、そしてWBA世界スーパーフライ級暫定王者として、二つの階級で世界の頂点を極めた実力者である。タイ南部出身のイスラム教徒で、本名はステープ・ワンムック。キャリアを通じてデンカオセーン・クラティンデーンジムやデンカオセーン・シンワンチャーといったリングネームも使用されたが、WBA公式記録では一貫してデンカオセーン・カオウィチットの名が用いられている。

華々しいプロデビューとPABAでの君臨

1996年11月28日、デンカオセーンはプロとしてのキャリアをスタートさせる。そのデビュー戦はいきなりパンアジアボクシング協会（PABA）フライ級王座決定戦という大きな舞台となった。フィリピンのメルビン・マグラモを相手に12ラウンドの判定戦を制し、プロ初戦でタイトル獲得という快挙を達成する。このPABAフライ級王座は、2002年8月に返上するまでの約6年間、18度という驚異的な回数の防衛に成功し、彼のキャリア初期における揺るぎない基盤となった。

初の世界挑戦と再起

PABA王座を返上した後の2002年10月13日、デンカオセーンは満を持して世界初挑戦に挑む。相手はWBA世界フライ級王者エリック・モレル（プエルトリコ）。しかし、この強敵を前に11回TKOで敗れ、プロキャリア初の黒星を喫する結果となった。

一度は失ったPABAのベルトだったが、2003年11月25日にはPABAフライ級暫定王座決定戦でジャック・メルディザール（フィリピン）に3回TKO勝ちを収め、王座に返り咲く。その後、正規王者への昇格を経て、暫定王座獲得からの防衛回数を合わせて16度まで記録を伸ばすなど、再びPABAのリングでその強さを示した。

世界王座獲得までの道のり

2007年11月4日、デンカオセーンは5年ぶりに世界王座再挑戦のチャンスを得る。さいたまスーパーアリーナで日本のWBA世界フライ級王者・坂田健史（協栄ジム）と激突。試合は一進一退の攻防となったが、ホールディングによる減点もあり、判定は三者三様のドローに終わる。王座獲得は叶わなかったものの、その実力は十分に世界に通用することを証明した。

世界戦後の2008年には、ABCOフライ級王座（レイ・オライスに3回KO勝ち）とPABAフライ級暫定王座（デニス・ファンティリャノに2回KO勝ち）を再び獲得するなど、地道に再起を図る。

そして迎えた2008年12月31日、デンカオセーンは広島サンプラザホールでWBA世界フライ級王者・坂田健史との再戦に臨む。この大晦日決戦で、デンカオセーンは坂田からKOによる勝利を奪い、遂に悲願だったWBA世界王座のベルトを腰に巻いた。

世界王者としての防衛戦と陥落

世界王者となったデンカオセーンは、2009年5月26日にウッタラディット県で日本の久高寛之（仲里ATSUMI）を相手に初防衛戦を行い、2-1の判定勝ちでこれをクリア。続く2度目の防衛戦は、2009年10月6日に大阪市中央体育館で日本の亀田大毅（亀田ジム）と対戦。ここでも2-0の判定で勝利し、王座を守り抜いた。

しかし、2010年2月7日に神戸ワールド記念ホールで行われた亀田大毅との再戦では、2度にわたる減点も響き、0-3の判定負けを喫する。3度目の防衛に失敗し、世界王座から陥落することとなった。

階級変更と二階級制覇

世界王座を失った後、デンカオセーンはPABAフライ級スーパー王座を獲得するなど再びPABAのリングで活動。その後、スーパーフライ級への転向を決断する。2011年にはPABAスーパーフライ級暫定王座を獲得し、後にスーパー王者に認定されると、この王座を10度にわたって防衛。階級を上げてなお、その実力が衰えていないことを示した。

そして、2013年9月3日、ナコーンラーチャシーマー県にて、元WBA世界スーパーフライ級王者の名城信男（日本）との間でWBA世界スーパーフライ級暫定王座決定戦が実現。激しい判定戦の末、2-1でデンカオセーンが勝利し、暫定ながらも2階級制覇という偉業を成し遂げた。

しかし、2014年3月26日、後楽園ホールで行われたWBA世界スーパーフライ級王座決定戦で、元同級王者の河野公平（日本）と対戦。この試合で8回KO負けを喫し、正規王座獲得はならず、約6ヶ月間保持した暫定王座からも陥落した。

キャリアの終盤と引退

スーパーフライ級の暫定王座を失った後、デンカオセーンはバンタム級に階級を上げて再起を図る。2014年7月4日には判定勝ちを収めたものの、その後の日本の松本亮戦（2回KO負け）や、オーストラリアでのPABAスーパーバンタム級スーパー王座挑戦試合（5回TKO負け）では敗戦が続いた。2016年4月3日、大阪で行われた日本の田中一樹戦で2回KO負けを喫した後、デンカオセーンはリングから離れることを表明した。

引退後

引退後の2016年10月、飼い犬を巡る近隣住民とのトラブルから、刀で切りつけられ、左手に指切断寸前の重傷を負うという痛ましい事件に巻き込まれた。

獲得タイトル

第2代PABAフライ級王座（防衛18=返上）
PABAフライ級暫定王座（防衛1=正規認定）
第5代PABAフライ級王座（防衛15=返上）
第6代ABCOフライ級王座
WBA世界フライ級王座（防衛2）
第12代PABAフライ級王座（防衛0=スーパー王座認定）
PABAフライ級スーパー王座（防衛1=返上）
PABAスーパーフライ級暫定王座（防衛0=スーパー王座認定）
PABAスーパーフライ級スーパー王座（防衛10）
WBA世界スーパーフライ級暫定王座（防衛0）

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