デヴィッド・コンデ

デヴィッド・コンデ：占領下の日本とアメリカを揺るがした特異なジャーナリスト

デヴィッド・コンデ（David W. Conde, 1906年 - 1981年）は、アメリカの軍属、フリーランスジャーナリストとして、その生涯において様々な顔を見せた人物です。カナダ生まれで後にアメリカに帰化した彼は、戦後の日本において重要な役割を果たし、その後はアメリカの政策を批判する特異なジャーナリストとして活動しました。

進駐軍軍属からジャーナリストへ

コンデは、1945年10月から1946年7月まで、民間情報教育局（CIE）映画演劇課長として、日本の映画業界に大きな影響を与えました。彼は、軍国主義的、国家主義的、封建主義的な内容の映画製作を禁止し、民主主義的な映画製作を推進しました。また、労働組合の結成を奨励し、東宝争議の原因を作るなど、戦後の日本社会の変革に関与しました。

1946年〜47年には、ロイターのジャーナリストとして極東国際軍事裁判を報道しましたが、「無許可の滞日」を理由にGHQから国外退去を命じられます。コンデ自身は、この処分をGHQによる非難と捉えていました。

アメリカ共産党員としての側面と、特異なジャーナリスト活動

平野共余子の調査によって、コンデがアメリカ共産党員であったことが明らかになっています。1964年以降、彼はたびたび日本を訪れ、『世界』や『朝日ジャーナル』などの雑誌に寄稿しました。また、『現代朝鮮史』や『CIA黒書』など、時事評論を日本語訳で出版しましたが、英語の著作はアメリカでは出版されていません。

1960年代のコンデは、在日米国人記者の中でも特異な存在でした。彼はアメリカの政策批判、CIAの暗躍、米国企業の内幕を暴く報道を積極的に行い、注目を集めました。しかし、日本ではジャーナリストと自称していたものの、アメリカではデパートのセールスマンとして働いていました。

朝鮮戦争に関する主張と批判

コンデは、著書『朝鮮戦争の歴史』において、朝鮮戦争は韓国による北朝鮮侵略であるとする「北侵説」を主張しました。この説は、共産主義・社会主義を支持する日本の左翼・革新研究者たちの間で、韓国による北朝鮮侵略説の根拠として利用されました。しかし、信夫清三郎によって、コンデの主張には誤りが多く含まれていることが指摘されました。

日本への来歴と映画検閲

コンデは、独学で日本問題を研究し専門家となりました。第二次世界大戦中は、米軍の軍属としてマッカーサーの下で戦時情報局心理戦部（PWB）に従事し、日本軍向けの心理戦を担当しました。1945年9月には米軍とともに日本に上陸し、情報将校ボナー・フェラーズの命で心理戦の効果を確認する仕事に就きました。その後、1945年10月にCIEに移籍し、映画の検閲に関わることになります。

1945年11月、コンデは映画製作の禁止条項を発表し、日本映画は企画、脚本段階で事前検閲を受けることになりました。これにより、時代劇は大幅に制限され、歌舞伎の演目にも規制が加えられました。一方で、検閲当局が日本人の生活習慣に無知であったため、キスシーンを描いた映画が多数製作されました。

映画『日本の悲劇』上映禁止事件

1946年8月、コンデはGHQの労働課長セオドア・コーエンと共に、映画『日本の悲劇』を企画しました。この作品は、戦前・戦中のニュース映画を再構成したものでしたが、天皇の戦争責任を追及する内容であったため、GHQ内部で問題となり上映禁止となりました。コンデは責任者として取り調べを受け、映画課長の職を追われることになりました。

この事件の背景には、CIEと民間検閲局（CCD）の対立があったと指摘されています。コンデが所属するCIEは急進的なニューディール主義者が多く、一方CCDは保守的な軍人が多かったため、占領政策を巡って意見が対立していました。このコンデ追放は、GHQが赤狩りに向かう転換点だったとも考えられています。

コンデの著作

コンデは、数多くの著書を出版しており、その多くが日本語訳されています。

『アメリカの夢は終った』(岩波新書, 1965)
『インドネシアの変貌 : 反革命の構造』(弘文堂, 1966)
『アジアの枢軸 : アメリカー日本』(青木書店, 1966)
『アメリカは何をしたか』(太平出版社, 1967)
『絶望のアメリカ』(徳間書店, 1967)
『CIA黒書』(労働旬報社, 1968)
『朝鮮 : 新しい危機の内幕』(太平出版社, 1969)
『アメリカはどこへゆく』(汐文社, 1969)
『現代朝鮮史』(太平出版社, 1971)
『朝鮮戦争史』(太平出版社, 1972)

結論

デヴィッド・コンデは、戦後の日本において、映画検閲や労働運動に深く関与し、その後はアメリカの政策を批判する特異なジャーナリストとして活動しました。彼の複雑な経歴と多面的な活動は、戦後日本の歴史を理解する上で重要な手がかりとなります。

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