デーンロウ

デーンロウとは

デーンロウ（Danelaw）は、9世紀後半からヴァイキング、特にデーン人の支配下にあったイングランド東部地域を指す言葉です。古英語では「Dena lagu」と呼ばれ、これは「デーン人の法」を意味します。この地域は、アングロ・サクソン人の法とは異なる独自の慣習法、方言、文化が根付きました。

地理的範囲

デーンロウは、現在のヨークから南、ロンドンの北に広がる地域で、ノーサンブリア地方南部とミッドランド地方南東部に相当します。主要な定住地はレスター、リンカン、ノッティンガム、スタムフォード、ダービーであり、これらは「五市地方」として知られています。

デーンロウ成立の背景

9世紀半ばから、デーン人を中心とするヴァイキングはブリテン島への侵攻を繰り返しました。865年には、大規模な軍団「大異教軍」がイースト・アングリアに上陸し、アングロ・サクソン人の諸王国を次々と征服しました。この軍団は、伝説的な指導者ラグナル・ロズブロークの息子たちによって率いられていました。

867年には、ノーサンブリア王国を征服し、首都ヨークを占領しました。さらに、マーシア王国とも和平条約を結び、領土への侵攻を回避しました。しかし、イースト・アングリア王国を征服し、ウェセックス王国に対しても攻撃を仕掛け、871年にはアッシュダウンの戦いで勝利を収めました。

871年にウェセックス王となったアルフレッド大王は、デーン人との戦いを続けましたが、一時的に貢納金を支払うことで和平を結びました。しかし、デーン人はその後もマーシア王国を侵略し、874年までにイースト・アングリア、ノーサンブリア、マーシアの支配権を確立しました。

876年には、デーン人はウェセックス王国の要塞を奪い、和平条約を破りましたが、アルフレッド大王の包囲により降伏しました。その後、878年に再び攻撃を仕掛けたものの、エディントンの戦いで敗北し、アルフレッド大王に降伏しました。この際、デーン人の指導者グスルムはアルフレッド大王によって洗礼を受けました。

デーンロウの確立

ウェセックス王国のアルフレッド大王は、878年のエサンドゥーンの戦いでデーン人首長グスルムを破り、ウェドモーアの和議を結びました。その後、886年にはロンドンを奪回し、第二の和約によって領土を画定しました。

デーン人はデーンロウ地域に定住し、次第に農民化しました。しかし、アングロ・サクソン王国の支配下に入った後も、デーン人内部の慣習法は維持され、ノルマン・コンクエスト後も長く残存しました。

ただし、デーン人の侵入当初、政治・社会・文化の一体性があったわけではなく、テムズ川以北、ハンバー川以北はウェセックス王国から見れば「異国」に近い地域であり、ウェセックス王国の法や慣習が及びづらい地域であったことも考慮する必要があります。

デーンロウの影響

デーン人の言葉（古ノルド語）は、英語にも多くの単語を残しました。例えば、「law」（後期古英語ではlagu）もその一つです。

10世紀初頭、エドワード長兄王とその姉エセルフリーダは、デーン人の領土を再征服しましたが、一部のデーン人領主には従来の統治を認めました。954年に最後のヴァイキング王が追放されたことで、ヴァイキングによる統治は終焉を迎えました。

デーン人のイングランドへの移住は、スカンディナヴィアの政治情勢と深く結びついていました。また、イングランドへの移民が増加するにつれて、デーン人の影響力はヘブリディーズ諸島、マン島、オークニー諸島など、広範囲に及びました。

まとめ

デーンロウは、ヴァイキング時代のイングランドにおいて、デーン人の文化と法が深く根付いた地域でした。デーン人の定住とアングロ・サクソン人との共存は、イングランドの歴史と文化に大きな影響を与えました。

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