デーヴィッド・ロイド＝ジョーンズ

デーヴィッド・ロイド＝ジョーンズ（1934年11月19日 - 2022年6月8日）は、イギリスを代表する指揮者の一人である。生涯を通じて、彼は故国の音楽遺産だけでなく、ロシアの豊かな音楽・文化にも深い関心と専門知識を寄せた。特にロシア・オペラに対しては並々ならぬ情熱を注ぎ、楽譜の綿密な校訂や編纂、さらには台詞の翻訳といった学術的な側面からも貢献を行った。

彼の音楽家としての歩みは、オックスフォード大学のモードリン・カレッジで学んだことから始まる。指揮台に初めて立ったのは1961年、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してのことであった。その後、ロイヤル・オペラ・ハウスでコレペティトールとしてオペラの現場で貴重な経験を積み重ねた。1972年には、イングリッシュ・ナショナル・オペラの副音楽監督に就任し、ここで彼の指揮者としての力量と幅広い視野が発揮されることとなる。彼は伝統的な作品から現代作品まで、多様なレパートリーを手がけ、特にセルゲイ・プロコフィエフの大作オペラ『戦争と平和』のイギリス初演を成功に導くなど、注目すべき業績を残した。

デーヴィッド・ロイド＝ジョーンズのキャリアにおける特筆すべき功績として、1978年のオペラ・ノース創設が挙げられる。イングランド芸術協議会の働きかけに応じる形で、彼はリーズに設立されたこの新たなオペラ団の初代音楽監督に迎えられた。彼は音楽監督として、オペラ団の芸術的な方向性を定めるとともに、専属オーケストラであるオペラ・ノース管弦楽団（後にイングリッシュ・ノーザン・フィルハーモニアとしても知られる）の芸術監督および首席指揮者も兼任した。オペラ・ノースでは、彼のもとで多様な演目が上演され、リヒャルト・シュトラウスの抒情的なオペラ『ダフネ』のイギリス初演を手がけるなど、意欲的なプログラムも積極的に取り入れた。彼の指導により、オペラ・ノースは短期間のうちに英国有数のオペラカンパニーへと成長した。彼は1990年までこの要職を務め、同団の基盤を築いた。

指揮活動と並行して、彼は精力的なレコーディング活動も展開した。特にナクソス・レーベルからは、イギリス音楽に焦点を当てた数多くの録音をリリースし、国際的に高い評価を獲得した。これらの録音は、忘れられがちなイギリスの作曲家たちの作品に光を当て、彼らの音楽を世界に紹介する上で重要な役割を果たした。代表的な録音としては、グスターヴ・ホルストの組曲『惑星』があり、これには近年再構成された「冥王星」が含まれる版も存在する。また、アーノルド・バックスの難解ながらも魅力的な交響曲全集の録音も高く評価されている。他にも、ウィリアム・オルウィン、アーサー・ブリス、チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォード、アラン・ロースソーンなど、多岐にわたるイギリス作曲家の作品を録音し、その功績は大きい。

長年にわたる音楽界への貢献が認められ、2007年には権威あるロイヤル・フィルハーモニー協会の名誉会員の称号が贈られた。

デーヴィッド・ロイド＝ジョーンズは、卓越した指揮技術に加え、オペラにおける深い洞察力、そして英国音楽やロシア音楽への献身を通じて、英国音楽界に多大な遺産を残した人物である。オペラ・ノースの創設者としての役割、そしてナクソスでの数多くの録音活動は、彼の名を後世に伝える重要な業績と言えるだろう。彼の幅広い活動は、多くの音楽愛好家に新たな発見をもたらし続けた。

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