トガサワラ

トガサワラ（栂椹）について

トガサワラ（学名：Pseudotsuga japonica）は、マツ科トガサワラ属に分類される常緑針葉樹です。日本固有種であり、本州、四国の一部地域にのみ分布しています。ツガに似た外見を持ちますが、より大木になることが特徴です。

概要

トガサワラは、山林に生育する高木で、時には高さ30mにも達します。モミやツガと混生することもありますが、それぞれの特徴は明確です。しかし、枝葉だけで見分けるには、ある程度の経験が必要です。

日本固有種であり、限られた地域にのみ分布しています。トガサワラ属は、現在4種が確認されていますが、かつてはより繁栄していたと考えられており、「生きている化石」とも呼ばれています。

名前の由来については、ツガに似ているものの、材がサワラに似ていることから名付けられたという説がありますが、定かではありません。地方によっては「カワキトガ」とも呼ばれることがありますが、これは乾燥した場所に生えるツガという意味合いがあると考えられています。

特徴

- 形態: 常緑性の高木で、樹高は30m、胸高直径は1mに達することがあります。樹皮は灰褐色で、縦に剥がれやすい鱗片状です。若枝は黄褐色で無毛です。
- 葉: 葉は螺旋状につきますが、両側に開いて2列になったように見えます。新芽は褐色の鱗片に覆われた楕円形です。葉の長さは15-27mmで、先端がやや曲がっていることが多いです。先端中央には窪みがあり、先が小さく二つに分かれているように見えますが、その突出部は丸みを帯びており、モミのように尖っていません。表面は緑色で光沢があり、裏面には白い気孔帯があります。
- 花と球果: 雌雄同株で、花は4月につきます。雄花は楕円形で、前年枝の先端に集まって咲きます。雌花も前年枝の先に付き、最初は上を向いていますが、成熟するにつれて下向きになります。球果は秋に熟し、卵形で長さは3.5-6cmです。ツガの球果より大きく、鱗片の縁から苞鱗片が顔を出し、3つに裂けて尖っているのが特徴です。この苞鱗片は先端が反り返って上を向きます。種子には翼があります。

生育環境

山間部の森林に生育し、暖帯から温帯にかけての地域に分布します。照[[葉樹林]]や落葉樹林に、モミやツガなどの針葉樹と混じって生えることが多く、特に乾燥した痩せ尾根に生育することが多いです。和歌山県では、標高300m程度の場所でも見られます。

分布

日本固有種であり、本州では紀伊半島南部、四国では高知県東部の一部地域に分布しています。大台ヶ原中腹に多く見られますが、いずれも内陸の限られた山間部にしか見られません。しかし、これらの地域では、森林の構成種として比較的多く見られることもあります。

発見史

地元では古くから知られていましたが、1893年に白沢保美によって学術的に発見されました。白沢は、奈良県吉野地方でこの木を採集し、研究の結果、1895年にツガ属の新種として発表しました。その後、現在のトガサワラ属に移されました。

利用

材はツガより柔らかく加工しやすいことから、桶材などに用いられていました。しかし、生育地の減少は、伐採の影響も大きいと考えられています。

分類

トガサワラ属は、現生種として北米と東アジアに4種が知られており、日本では本種のみが分布します。化石はヨーロッパからも発見されており、かつてはより広く分布していたことがわかります。また、日本国内でも、化石が複数種と共に発見されており、この種がかつては現在よりも豊富であったことを示しています。そのため、「生きた化石」と呼ばれることがあります。

類似種

同所的に出現するツガやモミとよく似ています。球果があれば区別は容易です。モミの球果は大きく、枝の上に直立し、種子と共に鱗片が脱落します。ツガの球果は小さく、枝先からぶら下がります。トガサワラの球果はツガに似ていますが、一回り大きく、鱗片の縁から苞鱗片が出ます。

葉の形では、モミの葉は長く、先端が尖っています。ツガの葉は短く、先端は丸みを帯びています。トガサワラの葉はツガに似ていますが、より細長いです。葉の付き方では、モミは両側に出る傾向が強く、ツガとトガサワラは螺旋状につきます。葉の基部を見ると、モミは丸く広がって茎に付き、ツガは葉枕があり、トガサワラは細い葉柄がすぐに茎に付くことで区別できます。

樹型では、トガサワラは横向きの枝がよく伸び、柔らかい印象を与える樹形になります。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは絶滅危惧種（EN）に指定されており、日本では環境省のレッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されています。奈良県には、国の天然記念物に指定されている「三ノ公川トガサワラ原始林」があります。生育地の減少は、過去の拡大造林の影響が大きいですが、繁殖力の低さから、今後の生育地維持が懸念されています。

もう一度検索