白沢保美

白沢保美（しらさわ やすみ）

白沢保美（1868年10月3日 - 1947年12月20日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の樹木学者です。東京市の都市緑化事業の指導者として初期の東京の緑化に貢献し、その功績は今日の都市景観にも息づいています。

生涯

慶応4年（1868年）、信濃国安曇郡明盛村（現在の長野県安曇野市）で医師の家に生まれました。立教学校（現在の立教大学）で学んだ後、1894年（明治27年）に帝国大学農科大学林学科を卒業。大学院に進学し研究を行う傍ら、農商務省山林局に技師として勤務しました。

1900年（明治33年）から2年間ヨーロッパに留学し、最新の林学を学びました。1903年（明治36年）には林学博士号を取得。1908年（明治41年）に山林局林業試験所長に就任し、1913年（大正2年）には林業試験場長となりました。1932年（昭和7年）に退職するまで20年以上にわたりその職を務め、日本の林学研究を牽引しました。この間、日本林学会会長、日本農学会会長も歴任し、学会の発展にも尽力しました。

都市緑化への貢献

白沢保美は、都市緑化に強い関心を持ち、その実現に尽力しました。1904年（明治37年）には、プラタナスやユリノキなどの種子を大量に公園樹木として供給し、都市の緑化を推進しました。また、1907年（明治40年）には、東京市の委嘱を受け、福羽逸人と協力して「東京市街路樹改良案」を提出。街路樹は種苗から育成すべきであると主張し、東京の街路樹事業の基礎を築きました。この提言に基づき、東京市はプラタナスやイチョウなどの栽培を開始し、1910年（明治43年）から新たな規格による街路樹の植栽に着手しました。その結果、戦前には10万本以上の街路樹が整備され、東京の都市景観は大きく向上しました。これらの事業を通じて、多くの優良な海外樹種が公園や道路、学校などの公共地に植えられ、緑豊かな都市環境が実現しました。

また、東京市公園改良委員として既存公園の改良にも尽力。林学関係の学生の指導や、関連学会・協会の活動にも積極的に参加し、後進の育成にも力を注ぎました。

1946年（昭和21年）3月22日、貴族院勅選議員に任じられ、同成会に所属し、1947年5月2日の貴族院廃止まで在任しました。

安曇野市に残るヒマラヤスギとユリノキ

長野県安曇野市役所三郷支所（旧・南安曇郡三郷村役場）と旧温明小学校跡には、白沢保美が植えたヒマラヤスギとユリノキが現存しています。ドイツ留学からの帰りにインドからヒマラヤスギを、アメリカからユリノキを持ち帰ったとされています。明治40年代に植えられて以来、道路工事や水道管工事などの困難を乗り越え、現在では共に目通り直径3メートルを超える大木に成長しています。白沢が持ち帰ったユリノキは5本あり、そのうち1本は1909年（明治42年）に温明小学校の創立を記念して植えられました。しかし、現存するのは当地と東京国立博物館（東京都台東区上野公園）にある1本のみで、残りは戦争や天災で失われたとのことです。これらの木々は、白沢保美の功績を今に伝える貴重な存在となっています。

参考文献

井下清ほか『首都緑化推進委負会十年誌』
大場秀章編集『植物文化人物事典 ―江戸から近現代・植物に魅せられた人々』日外アソシエーツ、2007年。
三郷村誌編纂委員会編纂『三郷村誌 II 第1巻 自然編』三郷村誌刊行会、2004年。
衆議院・参議院編『議会制度百年史 - 貴族院・参議院議員名鑑』大蔵省印刷局、1990年。
『貴族院要覧（丙）』昭和21年12月増訂、貴族院事務局、1947年。

外部リンク

安曇野市ゆかりの先人たち 白沢保美

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