三ノ公川トガサワラ原始林

三ノ公川トガサワラ原始林

三ノ公川トガサワラ原始林は、奈良県吉野郡川上村神之谷に位置し、国の天然記念物に指定されている貴重なトガサワラの原始林です。トガサワラは、マツ科トガサワラ属の常緑針葉樹で、日本固有種であり、紀伊半島と四国南東部の一部にのみ分布する希少な樹木です。

トガサワラについて

トガサワラ（栂椹、学名：Pseudotsuga japonica）は、マツ科トガサワラ属の日本固有種です。トガサワラ属は世界に4種ありますが、その中でもトガサワラの分布域は最も狭く、日本では紀伊半島と四国南東部の一部地域に限定されています。特に、奈良県と三重県にまたがる台高山脈から大台ヶ原山にかけての山岳地帯は、トガサワラの自生個体が多く見られる地域です。

三ノ公川トガサワラ原始林の特徴

三ノ公川の自生地は、鬱蒼とした原始林が残る急峻な山腹斜面に、生育良好なトガサワラが多数点在しています。この原始林は、希少種であるトガサワラの学術的な価値が高いことに加え、その保全の必要性から、1929年（昭和4年）12月17日に国の天然記念物に指定されました。指定範囲の面積は10ヘクタールで、所有者は川上村で古くから林業を営む川喜田林業です。また、この原始林は、文化庁が認定した日本遺産「〜美林連なる造林発祥の地"吉野"〜」の構成文化財の一つにも登録されています。

原始林へのアクセス

三ノ公川トガサワラ原始林のある川上村は、奈良県南東部の山岳地帯に位置し、古くから吉野林業で知られる林業地帯です。原始林は、吉野川（紀の川）の源流域の奥深くに位置し、大迫ダムから入之波温泉を経て、吉野川支流の北股川の深い峡谷を遡った、三之公川との合流点付近にあります。三之公川は三重県との県境を成す台高山脈から流れ下る渓谷で、北股川と三之公川に挟まれた険しい尾根上にトガサワラの原始林が残されています。

所在地：奈良県吉野郡川上村神之谷字三之公429-2番地
交通：近鉄大和八木駅または大和上市駅から路線バスで道の駅杉の湯・川上下車、入之波行きに乗り換え終点下車。入之波温泉より約8km。
* 自動車：西名阪自動車道郡山ICから約1時間30分（約65km）、南阪奈道路葛城ICから約1時間20分（約58km）

トガサワラの発見と指定

トガサワラは、樹木学者の白沢保美が1893年（明治26年）に紀伊半島で発見し、新種として発表しました。三ノ公川トガサワラ原始林が国の天然記念物に指定されたのは、植物学者の本田正次による現地調査とその報告がきっかけです。本田は1928年（昭和3年）に現地調査を行い、トガサワラが密生して自生していることを確認しました。

本田の調査によれば、トガサワラの自生範囲は、三ノ公川と北股川に挟まれた急峻な斜面に集中しており、標高670メートル前後に最も多く生育し、標高720メートル付近には幹囲2.7メートルに達する個体も存在していました。これらの調査結果に基づき、本田はトガサワラの自生地を天然記念物に指定するよう報告し、1929年（昭和4年）に三ノ公川トガサワラ原始林として国の天然記念物に指定されました。

現在の状況と保全

指定範囲は標高450メートルから730メートルの間に位置し、面積は10ヘクタールです。トガサワラの個体数が最も多いのは、三ノ公川の指定地から南東方向へ約5.5キロメートルのところにある、同じ川上村内の三十三荷（さんじゅうさんが）と呼ばれる大台ケ原山北面の山腹です。三ノ公川トガサワラ原始林は、トガサワラを伴うツガ林であり、急峻な地形と露岩や急崖が多いことが、トガサワラの天然更新に適した要因となっています。現在も、この貴重な原始林の保全活動が続けられています。

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