トニー・バンクス (ミュージシャン)
トニー・バンクス（Tony Banks）は、1950年3月27日にイングランドで生まれた、英国ロックシーンを代表するキーボーディストであり作曲家です。彼は、プログレッシブ・ロックからポップスまで多様な音楽を展開した伝説的なバンド、「ジェネシス」の創設メンバーとしてそのキャリアをスタートさせました。
ジェネシスの長い歴史の中で、バンクスは常にバンドの音楽的な方向性を決定づける重要な役割を果たしました。プログレッシブ・ロック時代における複雑な楽曲構成から、よりポップなサウンドへと変遷する過程においても、彼のキーボード演奏と緻密なアレンジメントは、常にジェネシス・サウンドの中核にありました。ステージでは、多数のキーボードに囲まれた「要塞」とも呼ばれる定位置から、派手さはないものの、バンドのサウンドを根底から支える演奏を披露しました。稀にアコースティックギターを手に取る姿も見られます。
彼の音楽的ルーツには、クラシックの作曲家であるドミートリイ・ショスタコーヴィチやグスタフ・マーラーからの深い影響が見られます。これは特に、ジェネシスのプログレッシブ期の楽曲における壮大でドラマティックな構成や、彼のソロパートのメロディラインに顕著に表れています。
バンクスは、そのキャリアを通じて使用する楽器と演奏スタイルを進化させてきました。キャリア初期には、攻撃的な響きのハモンドオルガンや、叙情的で美しいピアノ、そしてホーナー・ピアネットを用いた繊細なアルペジオが特徴的でした。その後、ギタリストのスティーヴ・ハケットからの勧めもあり、メロトロンを導入し、その幻想的なサウンドを多用するようになります。楽曲のクライマックスで奏でられる、重厚で分厚いコードの響きは、後の多くのキーボーディストに影響を与えました。
1973年のアルバム『月影の騎士』（Selling England by the Pound）からは、ARPシンセサイザーを導入。この時期の他の奏者と比較して、彼はより柔らかなトーンを好み、複雑な変拍子の上でも正確で流麗な速弾きを披露しました。スティーヴ・ハケット在籍期の中期ジェネシスのライブステージで使用されていた、フェイザーを通して包み込むようなサウンドにしたハモンドオルガン、RMIエレクトラピアノ、ARPプロソロイスト、そしてメロトロンM400といった楽器群は、トニー・バンクスを象徴するサウンドの源泉となりました。時代の変化に合わせて、ポリフォニックシンセサイザー、サンプラー、ヤマハCP-80、デジタルシンセなども取り入れていきましたが、彼のトレードマークとも言える独特のコード進行や洗練されたアレンジのセンスは一貫しており、これこそが彼自身の、そしてジェネシスの音楽性を維持する上で重要な要素となりました。反面、あまりに完成された緻密なアレンジスタイルが、ギタリストの創造的な空間を徐々に狭めてしまい、ハケットの脱退に繋がったという側面も指摘されています。
ジェネシスでの活動と並行して、バンクスはソロアーティストとしても活動を展開しました。ソロ名義での作品のほか、映画音楽の制作にも携わり、またバンクステートメント（Bankstatement）やストリクトリー・インク（STRICTLY INC.）といったプロジェクトでの活動も行いました。しかしながら、ジェネシスの他のメンバー、例えばピーター・ガブリエル、フィル・コリンズ、マイク・ラザフォードらがソロ活動で商業的に大きな成功を収めたのとは対照的に、バンクスのソロ作品のセールスは比較的小規模に留まりました。
近年では、自身のクラシック音楽への造詣を深め、オーケストラ作品を発表しています。2004年にはクラシック専門レーベルであるナクソスから、長年構想を温めていたオーケストラ組曲「セブン」（Seven: A Suite for Orchestra）をリリースしました。その後もクラシック作品の発表を続けています。
ライブパフォーマンスにおいては、ほとんど表情を変えずに演奏をこなすことが多いバンクスですが、1976年のコンサートでは珍しく楽しげに演奏する姿が見られたり、マリリオンのボーカリストであるフィッシュと共作した「Shortcut to Somewhere」といった一部のプロモーションビデオでは、普段見せないようなお茶目な一面を披露したこともあります。
ジェネシスは、2010年にロックの殿堂入りを果たしており、創設メンバーであるバンクスもその栄誉に浴しました。
ソロ・アルバム
『キュアリアス・フィーリング』 - A Curious Feeling (1979年)
The Wicked Lady (1983年) ※サウンドトラック
『ザ・フュージティブ』 - The Fugitive (1983年)
『サウンドトラックス』 - Soundtracks (1986年) ※サウンドトラック
『バンクステートメント』 - Bankstatement (1989年) ※バンクステートメント名義
『スティル』 - Still (1991年)
『ストリクトリー・インク』 - Strictly Inc. (1995年) ※ストリクトリー・インク名義
『セヴン - 管弦楽のための組曲』 - Seven: A Suite for Orchestra (2004年)
『管弦楽のための6つの小品』 - Six Pieces for Orchestra (2012年)
『ファイブ』 - Five (2018年)
コンピレーション・アルバム
『ア・コード・トゥ・ファー』 - A Chord Too Far (2015年)
『バンクス・ボールツ - ザ・アルバムズ 1979-1995』 - Banks Vaults: The Albums 1979–1995 (2019年)
ソロ・シングル
『フォー・ア・ホワイル』 - "For a While" (1979年)
"The Wicked Lady" (1983年)
"This Is Love" (1983年)
"And the Wheels Keep Turning" (1983年)
"You Call This Victory" (1985年) ※フィーチャリング・ジム・ダイアモンド
"Shortcut to Somewhere" (1986年) ※フィーチャリング・フィッシュ
"Throwback" (1989年)
"I'll Be Waiting" (1989年)
『アイ・ワナ・チェンジ・ザ・スコアー』 - "I Wanna Change the Score (1991年) ※フィーチャリング・ニック・カーショウ
"The Gift" (1991年) ※フィーチャリング・アンディ・テイラー
"Still It Takes Me By Surprise" (1992年) ※フィーチャリング・アンディ・テイラー
"Only Seventeen" (1995年)
* "Walls of Sound" (1995年)
ジェネシスの長い歴史の中で、バンクスは常にバンドの音楽的な方向性を決定づける重要な役割を果たしました。プログレッシブ・ロック時代における複雑な楽曲構成から、よりポップなサウンドへと変遷する過程においても、彼のキーボード演奏と緻密なアレンジメントは、常にジェネシス・サウンドの中核にありました。ステージでは、多数のキーボードに囲まれた「要塞」とも呼ばれる定位置から、派手さはないものの、バンドのサウンドを根底から支える演奏を披露しました。稀にアコースティックギターを手に取る姿も見られます。
彼の音楽的ルーツには、クラシックの作曲家であるドミートリイ・ショスタコーヴィチやグスタフ・マーラーからの深い影響が見られます。これは特に、ジェネシスのプログレッシブ期の楽曲における壮大でドラマティックな構成や、彼のソロパートのメロディラインに顕著に表れています。
バンクスは、そのキャリアを通じて使用する楽器と演奏スタイルを進化させてきました。キャリア初期には、攻撃的な響きのハモンドオルガンや、叙情的で美しいピアノ、そしてホーナー・ピアネットを用いた繊細なアルペジオが特徴的でした。その後、ギタリストのスティーヴ・ハケットからの勧めもあり、メロトロンを導入し、その幻想的なサウンドを多用するようになります。楽曲のクライマックスで奏でられる、重厚で分厚いコードの響きは、後の多くのキーボーディストに影響を与えました。
1973年のアルバム『月影の騎士』（Selling England by the Pound）からは、ARPシンセサイザーを導入。この時期の他の奏者と比較して、彼はより柔らかなトーンを好み、複雑な変拍子の上でも正確で流麗な速弾きを披露しました。スティーヴ・ハケット在籍期の中期ジェネシスのライブステージで使用されていた、フェイザーを通して包み込むようなサウンドにしたハモンドオルガン、RMIエレクトラピアノ、ARPプロソロイスト、そしてメロトロンM400といった楽器群は、トニー・バンクスを象徴するサウンドの源泉となりました。時代の変化に合わせて、ポリフォニックシンセサイザー、サンプラー、ヤマハCP-80、デジタルシンセなども取り入れていきましたが、彼のトレードマークとも言える独特のコード進行や洗練されたアレンジのセンスは一貫しており、これこそが彼自身の、そしてジェネシスの音楽性を維持する上で重要な要素となりました。反面、あまりに完成された緻密なアレンジスタイルが、ギタリストの創造的な空間を徐々に狭めてしまい、ハケットの脱退に繋がったという側面も指摘されています。
ジェネシスでの活動と並行して、バンクスはソロアーティストとしても活動を展開しました。ソロ名義での作品のほか、映画音楽の制作にも携わり、またバンクステートメント（Bankstatement）やストリクトリー・インク（STRICTLY INC.）といったプロジェクトでの活動も行いました。しかしながら、ジェネシスの他のメンバー、例えばピーター・ガブリエル、フィル・コリンズ、マイク・ラザフォードらがソロ活動で商業的に大きな成功を収めたのとは対照的に、バンクスのソロ作品のセールスは比較的小規模に留まりました。
近年では、自身のクラシック音楽への造詣を深め、オーケストラ作品を発表しています。2004年にはクラシック専門レーベルであるナクソスから、長年構想を温めていたオーケストラ組曲「セブン」（Seven: A Suite for Orchestra）をリリースしました。その後もクラシック作品の発表を続けています。
ライブパフォーマンスにおいては、ほとんど表情を変えずに演奏をこなすことが多いバンクスですが、1976年のコンサートでは珍しく楽しげに演奏する姿が見られたり、マリリオンのボーカリストであるフィッシュと共作した「Shortcut to Somewhere」といった一部のプロモーションビデオでは、普段見せないようなお茶目な一面を披露したこともあります。
ジェネシスは、2010年にロックの殿堂入りを果たしており、創設メンバーであるバンクスもその栄誉に浴しました。
ディスコグラフィ
ソロ・アルバム
『キュアリアス・フィーリング』 - A Curious Feeling (1979年)
The Wicked Lady (1983年) ※サウンドトラック
『ザ・フュージティブ』 - The Fugitive (1983年)
『サウンドトラックス』 - Soundtracks (1986年) ※サウンドトラック
『バンクステートメント』 - Bankstatement (1989年) ※バンクステートメント名義
『スティル』 - Still (1991年)
『ストリクトリー・インク』 - Strictly Inc. (1995年) ※ストリクトリー・インク名義
『セヴン - 管弦楽のための組曲』 - Seven: A Suite for Orchestra (2004年)
『管弦楽のための6つの小品』 - Six Pieces for Orchestra (2012年)
『ファイブ』 - Five (2018年)
コンピレーション・アルバム
『ア・コード・トゥ・ファー』 - A Chord Too Far (2015年)
『バンクス・ボールツ - ザ・アルバムズ 1979-1995』 - Banks Vaults: The Albums 1979–1995 (2019年)
ソロ・シングル
『フォー・ア・ホワイル』 - "For a While" (1979年)
"The Wicked Lady" (1983年)
"This Is Love" (1983年)
"And the Wheels Keep Turning" (1983年)
"You Call This Victory" (1985年) ※フィーチャリング・ジム・ダイアモンド
"Shortcut to Somewhere" (1986年) ※フィーチャリング・フィッシュ
"Throwback" (1989年)
"I'll Be Waiting" (1989年)
『アイ・ワナ・チェンジ・ザ・スコアー』 - "I Wanna Change the Score (1991年) ※フィーチャリング・ニック・カーショウ
"The Gift" (1991年) ※フィーチャリング・アンディ・テイラー
"Still It Takes Me By Surprise" (1992年) ※フィーチャリング・アンディ・テイラー
"Only Seventeen" (1995年)
* "Walls of Sound" (1995年)
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