トマノン

トマノン：アンコール遺跡の美しいヒンドゥー寺院

トマノン（Thommanon）は、カンボジアのアンコール遺跡群にあるヒンドゥー教寺院で、12世紀前半にスーリヤヴァルマン2世によって建立されました。チャウ・サイ・テヴォーダと対をなすこの小さな寺院は、アンコール・トムの勝利の門から東へ約500メートルの場所に位置しています。

歴史

トマノンの建立年代については、学者間でいくつかの見解があります。一部の研究者は、デバターの彫刻の特徴から11世紀末にジャヤーヴァルマン6世の治世下で建設されたと主張しています。しかし、より有力な説は、アンコール・ワットの建設が始まった頃の1113年から1150年にかけて、スーリヤヴァルマン2世によって建てられたというものです。

ヴィシュヌ派の崇拝は、ジャヤーヴァルマン2世とその息子ジャヤーヴァルマン3世によってカンボジアに導入され、それ以降、シヴァ派の崇拝とともに、トマノン、ベンメリア、チャウ・サイ・テヴォーダ、バンテアイ・サムレ、アンコール・ワットなどの寺院でヴィシュヌ崇拝が行われるようになりました。

1960年代には、フランス極東学院（EFEO）によって大規模な修復が行われ、考古学者ベルナール＝フィリップ・グロリエがコンクリートの天井を加えるなどの修復作業を行いました。

構造

トマノンは、高さ約2メートルの基壇の上に、中央祠堂（塔）、拝殿、経蔵から構成されています。東と西に塔門があり、東塔門から伸びる参道の東には小型の十字テラスがあります。

中央の聖所は円錐形の冠をいただく祠堂であり、東からの通路は塔門を経て拝殿につながり、その先に中央祠堂があります。

寺院を囲む複合壁はほとんどが失われていますが、東と西に入場門が残っています。中央の塔が主要な祠堂の遺構であり、トマノンとチャウ・サイ・テヴォーダは、大きな門を持つ複合構造物として接続されていた可能性があります。主祠堂の南東側には、独立した経蔵があります。

特徴的な彫刻

トマノンの彫刻は保存状態が良く、周囲の密林とのコントラストが際立っています。建築様式はアンコール・ワットやチャウ・サイ・テヴォーダと類似しており、特にデバターの彫刻は、この寺院の大きな魅力の一つです。

トマノンは、上部構造に木製の梁を使用していないため、比較的保存状態が良いと考えられています。また、彫刻の素材として砂岩を採用したことも、他の寺院と比較して構造上の優位性を示しています。すべての扉口には、精巧なペディメント（破風）が施されています。

デバター像

トマノンには、他のクメール寺院と同様に、数多くのデバター（女神）の立像が見られます。デバターは、花の冠、サンポット（スカート衣装）、首飾り、腕輪、帯、足輪などを身につけており、複雑な印相を示しています。特に、花を持つデバターは、親指に対して中指で環を作り、小指を伸ばす独特な印相を示しており、アンコール・ワットでも同様の印相が見られます。

デバターのサンポットには、古代の襞のある様式と、アンコール・ワットで見られる折り目と「尾」のある模様の生地の2種類があります。

まとめ

トマノンは、アンコール遺跡群の中でも特に美しい寺院の一つであり、精巧な彫刻と保存状態の良さから、訪れる人々を魅了しています。アンコール・ワット様式の影響を受けつつも、独自の魅力を放つこの寺院は、カンボジアの歴史と文化を今に伝える貴重な遺産です。

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