ベンメリア

ベンメリア寺院：密林に眠る古都の記憶

ベンメリア寺院は、カンボジアのシェムリアップ州に位置する、アンコール遺跡群に属する寺院遺跡です。その名は「メリアの池」を意味し、かつてこの地がハスの池であったことを示唆しています。シェムリアップの東約40キロメートルの密林の中にあり、その静寂な佇まいは、訪れる者を古代のロマンへと誘います。

「東のアンコール・ワット」

ベンメリアは、アンコール・ワットの建造に先立つ11世紀末から12世紀初頭に造営されたと推測され、アンコール・ワットのモデルとなったとも言われています。環濠の規模はアンコール・ワットよりやや小さいですが、その類似点から「東のアンコール・ワット」とも称されます。しかし、長年の風雨にさらされ、崩壊が進んでおり、その多くが瓦礫と化しているのが現状です。

古代の交通の要衝

ベンメリアは、アンコール地域（都城）を起点とする古道（王道）に位置し、クーレン山、コー・ケー、ラオスのワット・プーへと続く交通の要衝でした。この地には、アンコール地域と同じくバライ（貯水池）が築かれ、広大な穀物地帯を形成していました。また、付近には良質な砂岩を産出する石切り場があり、この地で切り出された石材が寺院の建造に使用されました。

バライと周辺の祠堂

寺院の東側には、東西1500メートル、南北600メートルの広大なバライ「スラ・ケウ」が広がっています。現在では干上がっていますが、かつては水をたたえていたとされます。バライの中央には祠堂があり、西堤中央部には小祠ベーン・ケヴ、南堤中央部にはプラサット・チュレイ、東堤南東部にはプラサット・コン・プルックの祠堂が点在しています。また、寺院の西側にはプラサット・ドン・チャンの祠堂、アンコール方面への道には石橋スピアン・トゥノット・タ・デーヴが残っています。

白象伝説

ベンメリアには、白象伝説が語り継がれています。それは、村娘が白象の尿で身ごもり生まれた娘トンセトラと、白象である父との悲しい物語です。猟師に連れ去られた娘を追う白象が、怒りのあまり寺院を破壊したという伝説は、遺跡に神秘的な彩りを加えています。

歴史

ベンメリアの建設年代には諸説ありますが、11世紀末から12世紀初頭の建築と考えられています。アンコール・ワットの試作として設計されたとする説がありますが、確証はありません。装飾や建築様式は、アンコール・ワットと同年代またはやや後のものと見られています。ヒンドゥー教寺院として建造され、ヒンドゥー教神話をモチーフとした浮き彫り装飾が残っています。建立には複数の王が関わったとされ、アンコール・ワットのような王による直轄ではなく、地方の長や有力者らが建立に関わったと考えられています。

ポル・ポト派の支配後、1992年に世界遺産暫定リストに登録され、地雷撤去を経て、2003年に一般公開されました。現在では木道が設置され、安全に見学できるようになっています。

構成

寺院は、東西1200メートル、南北900メートルの環濠に囲まれ、境内は東西1100メートル、南北600メートルの周壁で囲まれています。東を正面として建てられ、バライ西堤テラスから参道が通じ、十字型のテラスから三重の回廊、塔門へと繋がっています。主な建築資材は良質な砂岩で、アンコール・ワットと類似した設計・配置ですが、ベンメリアは平地型です。また、バプーオン様式、アンコール・ワット様式、バイヨン様式にわたる建築様式が見られます。

外回廊にはアプサラの彫像がみられ、東側の外回廊と第2回廊の間には砂岩の経蔵があります。中央には十字型の中庭があり、ヴォールト天井の回廊を通って中央祠堂に通じていましたが、中央塔堂は崩壊しています。

見学情報

開門時間: 7:30-17:30、無休。
入場: アンコールパス（アンコール遺跡入場券）が必要です。
交通: シェムリアップから約70キロメートル。

ベンメリアは、その崩壊が進んだ姿と、密林の中にひっそりと佇む姿が、訪れる者に深い印象を与えます。アンコール・ワットとは異なる独特の雰囲気は、古代の歴史ロマンを掻き立てます。訪れる際は、遺跡の保全のため、木道から外れないようご注意ください。

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