トミュリス

トミュリス：マッサゲタイ族の女王

トミュリス（Tomyris）は、紀元前530年頃に中央アジアのカスピ海東岸に存在したマッサゲタイ族の女王として知られています。ペルシア語では彼女の名はタフマライーシュ（تَهم‌رییش）と表記されます。彼女とその息子、軍隊の指揮官スパルガピセスの名前は、イランの文化に由来し、長い間語り継がれてきました。

歴史的背景

トミュリスについての最初の記録は、古代ギリシャの歴史家ヘロドトスの著作『歴史』に見られます。彼は、トミュリスがペルシアの王キュロス2世が率いるアケメネス朝ペルシア軍と対峙し、彼を破って殺害したと記したとされています。この記述は、トミュリスの生涯を語る上で欠かせないものであり、彼女の存在を後世に伝える重要な情報源となっています。

ヘロドトスはトミュリスの生きた時代から約100年後の人物ですが、彼の記録は多くの後世の歴史家たち、例えばストラボンやポリュアイノス、カッシオドルス、ヨルダネスらによっても引用され、彼女の伝説を広める要因となりました。

キュロスとの戦い

ペルシアは、初めのマッサゲタイ族との戦闘で敗北したことから、キュロス2世は策略を用いてトミュリスに挑みました。彼はルディア王国の最後の王クロイソスの助言に従い、貧しいマッサゲタイ族を誘惑する大量の食物と酔わせるためのハシシ、雌馬のミルクを用意しました。これにより、マッサゲタイ族は酔っ払い、無防備な状態に陥り、その隙をついてペルシア軍が襲いかかりました。この戦闘でトミュリスの息子スパルガピセスは捕虜となり、後に自殺してしまいます。

この出来事を知ったトミュリスは激怒し、キュロスに攻撃を仕掛けました。彼女率いるマッサゲタイ軍は、ペルシア軍と壮絶な戦闘を繰り広げ、最終的には勝利を収めます。結果的にキュロスはこの戦いで命を落としました。

トミュリスの言葉

トミュリスは、戦闘が終わった後にキュロスの遺体を見つけ、彼の首を切り落としました。そして、彼に対してこう語りました。「私は生き延びて戦いには勝ったが、あなたが私の子を捕えたことであなたの勝ちでもあった。さあ、約束通りあなたに血を浴びせてやろう。」（ヘロドトス『歴史』1-214）

この言葉は、トミュリスが母としての強い意志を表しており、彼女の業績が単なる軍事的勝利に留まらないことを示しています。

文化的影響

トミュリスの物語は多くの芸術作品にも影響を与えました。西洋の画家や芸術家たち、特にピーテル・パウル・ルーベンスやギュスターヴ・モローは、彼女の戦いをテーマにした作品を描いています。彼女の逸話は今なお多くの人々にインスピレーションを与え続けています。

登場作品

更に、トミュリスは現代のメディアにも登場しており、2019年のカザフスタン映画「女王トミュリス 史上最強の戦士」では、彼女の壮絶な生涯を描写されています。また、人気のあるゲーム『Civilization VI』でも、スキタイ文明の指導者として登場しています。彼女の存在感と歴史的意義は、時代を超えて多くの人々に影響を与えるものとなっています。

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