トヨペット・SA型小型乗用車

トヨペットSA型小型乗用車：先進性と時代とのギャップ

トヨペットSA型は、トヨタ自動車が1947年に開発した小型乗用車です。終戦後の日本で初の完全新設計車であり、先進的なメカニズムを数多く採用した画期的な存在でした。しかし、当時の社会情勢や市場の未成熟さ、技術的な制約から、商業的には成功を収めることができませんでした。

開発の背景

戦前の日本の自動車産業は、欧米に比べて大きく遅れていました。1930年代になってようやく日産自動車の「ダットサン」や高速機関工業の「オオタ」が登場し、国産小型乗用車の生産が始まりましたが、いずれも750cc級のミニマムなクラスであり、品質面でも十分とは言えませんでした。

一方、タクシー業界ではアメリカ製の大型車が主流でしたが、トヨタ自動車はフォードやシボレーに対抗する大型車の生産を目指し、1936年に初の市販乗用車「AA型」を発表しました。しかし、AA型はアメリカ車の模倣に留まる部分が多く、品質面でも欧米車には及びませんでした。

そこでトヨタは、日本の国情に合わせた小型乗用車の開発を計画し、1939年には2.2リッターエンジンを搭載した中型試作乗用車「AE型」（新日本号）を完成させました。しかし、戦時体制下では乗用車の市販が困難となり、開発は頓挫しました。

SA型の開発

終戦後、トヨタは小型乗用車の開発を再開しました。資源の乏しい日本においては、大型車よりも小型車が適していると考えたからです。1945年8月末には開発計画が起案され、同年11月には早くも開発に着手されました。

開発は異例のハイペースで進められ、1947年1月には試作車が完成しました。SA型は、当時の日本車としては珍しい、欧州車風のハイメカニズムを大挙導入した意欲的なモデルでした。四輪独立懸架やバックボーンフレーム、コラムシフトなど、先進的な技術が採用されました。

1947年10月、SA型はSB型トラックと共に、トヨタ初の小型自動車として発表されました。

SA型の構造

SA型は、四輪独立懸架のバックボーンフレームに全鋼製流線型車体を載せたフロントエンジン・リアドライブの小型乗用車でした。そのレイアウトは、1930年代のドイツやチェコスロバキアの自動車を連想させるものでした。特に、フェルディナント・ポルシェ設計のKdF（後のフォルクスワーゲン・タイプ1）との類似性が指摘されています。

全長は3,800mm、全幅は1,600mm弱で、当時の日本製小型車に比べて二回りも大型でした。このサイズは、ヨーロッパの本格的な小型乗用車と同等でした。

シャーシ

SA型は、日本製小型乗用車としては初めて鋼板バックボーンフレームを採用しました。また、前輪はコイルスプリングを用いたダブルウィッシュボーン、後輪は横置きリーフスプリングで吊られたスイングアクスルという、日本初の四輪独立懸架を採用しました。

エンジン

SA型には、新たに開発された水冷直列4気筒エンジン「S型」が搭載されました。995ccの排気量から最高出力27PSを発生し、当時の日本製乗用車用エンジンとしては最新鋭のものでした。

トランスミッション

トランスミッションは、前進3段・後進1段のマニュアル式で、ローギアを除きシンクロメッシュ・ギアとし、変速操作を容易にしました。また、シフトレバーをステアリングコラムに装備し、前席足元のスペースを確保しました。

スタイリング

SA型のスタイリングは、1930年代のヨーロッパで流行した「ヤーライ・スタイル」の典型で、独立フェンダーを備える全鋼製流線型ボディが特徴でした。欧州風と米国風を融合させることをテーマに、フォルクスワーゲン等を参考にしながら、米国風のノッチバックスタイルとラジエーターグリルを組み合わせました。

商業的な失敗

SA型は、1947年から細々と生産されましたが、1952年5月までに215台が製造されたに留まりました。その原因としては、以下の点が挙げられます。

工作・品質不良： 戦後の混乱期で、工作機械や資材が不足していたため、品質が安定しませんでした。
非力な性能： 最新メカニズムの導入により車重が重くなった一方、エンジンの出力が不足していました。
悪路への不適性： 当時の日本の道路は未舗装の箇所が多く、複雑な独立懸架は耐久性に欠けました。
販路のなさ： 当時の国産乗用車のユーザーはタクシー業界がほとんどでしたが、SA型はオーナードライバー向けであり、タクシー用途には適していませんでした。

まとめ

トヨペットSA型は、商業的には失敗作に終わりましたが、先進技術の試行やスタイリングの研鑽など、その開発経験はトヨタ自動車に貴重な示唆を与え、後の初代トヨペット・クラウンの開発にも影響を及ぼしました。SA型は、日本の自動車史における重要なデザインスタディとして評価されるべきでしょう。

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