トランケバル

トランケバル：デンマーク領インドの歴史と遺産

トランケバル（Tranquebar、タミル語名：Tarangambadi）は、インド南東部のタミル・ナードゥ州コロマンデル海岸に位置する、かつてデンマークの貿易植民地として栄えた場所です。現在のタランガンバディは、静かな漁村ですが、その街並みには17世紀から19世紀にかけてのデンマークの面影が色濃く残っています。

デンマーク植民地としての始まり

17世紀初頭、デンマーク王クリスチャン4世は、デンマーク＝ノルウェーをヨーロッパの列強に並ぶ植民地帝国にしようと試みました。1618年、オベ・ギデ率いる艦隊がインドとの貿易を目指して派遣されました。当初はセイロン（現在のスリランカ）での貿易を試みましたが失敗。その後、南インドのタンジャーヴールを支配していたナーヤカとの交渉により、1620年、トランケバルに貿易拠点を設立することが認められました。

ナーヤカは、デンマークとの貿易を通じてポルトガルの影響力を排除し、自国の貿易を発展させることを期待しました。デンマークは、ナーヤカに年貢を支払う代わりに、トランケバルでの貿易独占権を得ました。

貿易拠点としての発展

トランケバルは、デンマークのアジアにおける貿易拠点として発展しました。砂糖、藍、コショウ、シナモン、カルダモンなどの香辛料、綿、絹などが主要な交易品でした。植民地の全盛期である18世紀末には、200人以上のヨーロッパ人が居住し、インド各地やインドネシア、中国、タイ、ペルシアなどとの貿易を統括する拠点となりました。トランケバルは貿易だけでなく、文化交流の拠点としての役割も担っていました。

宣教師の活動

1705年、ドイツ人宣教師のBartholomäus ZiegenbalgとHeinrich Plütschauがトランケバルに派遣されました。彼らはルーテル教会から派遣された最初の宣教師であり、現地の言語であるタミル語を学び、聖書や辞書を翻訳・出版しました。彼らが設立した印刷所は、その後100年以上にわたり、300冊以上のタミル語書籍を印刷し、タミル語の普及に大きく貢献しました。彼らの活動は、キリスト教の布教だけでなく、現地の言語や文化の研究にもつながりました。

デンマークからイギリスへ

19世紀に入ると、デンマークの貿易は衰退し始めました。ナポレオン戦争の影響もあり、1845年、デンマークはトランケバルを含むインドの植民地をイギリスに売却しました。これにより、200年以上にわたるデンマークのインド植民地支配は終焉を迎えました。

現在のトランケバル

現在、タランガンバディとなったトランケバルには、当時の面影を残す建造物が点在しています。17世紀に建てられたダンスボー砦（デンマーク城）は保存状態が良く、当時のデンマークの建築様式を今に伝えています。また、市門や国王通り（Kongensgade）、知事の住居なども残されており、歴史的な景観を形成しています。これらの建造物は、デンマークとインドの歴史的なつながりを物語る貴重な遺産となっています。

トランケバルは、デンマークの植民地支配の歴史を伝える場所であると同時に、異なる文化が交差した場所でもあります。その歴史と文化遺産は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

デンマーク領時代の知事一覧

以下は、トランケバルがデンマーク領だった時代の知事の一覧です。

Ove Gjedde (設立者 1620年10月11日-1621年2月13日)
Roland Crappe (1620年12月14日-1636年11月9日)
Bernt Pessart (1636年11月9日-1643年9月5日)
Willem Leyel (1643年9月5日-1648年)
Paul Hansen Korsør (1648年-1655年9月7日)
Eskild Andersen Kongsbakke (1655年9月7日-1669年)
Henrik Eggers (1669年-1673年)
Sivert Adeler (1673年-1682年10月)
Axel Juel (1682年10月-1687年7月9日)
Wolff Heinrich von Calnein (1687年7月9日-1687年10月)
Christian Porck (1687年10月-1689年)
Moritz Hartmann (1689年-1690年)
Christian Porck (1690年-1694年)
Claus Vogdt (1694年-1701年5月9日)
Andreas Andreæ (1701年5月19日-1701年)
Mikkel Knudsen Crone (1701年-1702年)
Jørgen Hermandsen Bjørn (1702年7月-1704年)
Johan Sigismund Hassius (1704年7月1日-1716年10月20日)
Christen Brun-Lundegaard (1716年10月20日-1720年1月21日)
Christian Ulrich von Nissen (1720年1月23日-1726年10月12日)
Rasmus Hansen Attrup (1726年10月12日-1730年8月8日)
Diderich Mühlenport (1730年8月8日-1733年8月1日)
Poul Krisk Panck (1733年8月1日-1741年7月13日)
Ivar Bonsack (1741年7月13日-1744年9月17日)
Hans Ernst Bonsack (1744年9月17日-1754年9月5日)
Hans Georg Krog (1754年9月5日-1759年8月10日)
Christian Frederik Høyer (1759年5月9日-1760年7月4日)
Herman Jacob Forck (1760年7月4日-1761年4月27日)
Hermann Abbestée (1期目: 1761年4月29日-1775年2月14日)
David Brown (1775年2月14日-1779年1月17日)
Hermann Abbestée (2期目: 1779年1月17日-1788年5月17日)
Peter Anker (1788年5月17日-1806年2月7日)
Johan Peter Hermannson (1期目: 1806年2月7日-1808年2月13日)
Besat af England (1808年2月13日-1815年9月20日)
Gerhard Sievers Bille (1815年9月20日-1816年11月19日)
Johan Peter Hermannson (2期目: 1816年11月19日-1822年2月15日)
Jens Kofoed (1822年2月16日-1823年5月7日)
Ulrich Anton Schönheyde (1823年5月7日-1825年3月7日)
Hans de Brinck-Seidelin (1825年3月7日-1829年3月26日)
Lauritz Christensen (1829年3月26日-1832年5月14日)
Conrad Emil Mourier (1832年5月17日-1838年5月1日)
Johannes Rehling (1838年5月1日-1841年6月18日)
Christian Tiemroth (1841年6月18日-1841年9月15日)
Peder Hansen (1841年10月16日-1845年11月7日)

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