トリコモナス症

トリコモナス症について

トリコモナス症は、原生生物であるトリコモナスによって引き起こされる哺乳類や鳥類に見られる感染症の総称です。特に人には、性感染症の一つとして知られる膣トリコモナス症が多く見られていますが、その他にも大腸に感染し下痢を引き起こす腸トリコモナス症なども存在します。日本では家畜伝染病予防法で届出伝染病として認定されており、特に牛や水牛に関連しています。法令上の名称も「トリコモナス病」から「トリコモナス症」へと変更されています。ここでは、主にヒトの膣トリコモナス症について詳しく紹介します。

症状

膣トリコモナス症の主な症状には以下のものがあります:

• - 膣炎、子宮頸管炎、尿道炎
• - 悪臭が伴う黄白色または黄緑色の泡沫状帯下
• - 性交や排尿時の不快感、かゆみ、灼熱感
• - 下腹部の痛み

通常、これらの症状は約10日間の潜伏期間を経て現れます。続発症として、ヒト免疫不全ウイルス（HIV）への感染リスクや未熟児の出産が増加する可能性が指摘されているため注意が必要です。男性は通常無症状が多いですが、時には尿道にかゆみや排尿・射精時の軽い痛みを感じる場合もあります。

感染

トリコモナス症の原因は、トリコモナス・ヴァギナリス（Trichomonas vaginalis）と呼ばれる原生生物にあります。この病原体は主に尿生殖器に感染し、特に女性の尿道や膣が最も影響を受けます。感染は主に粘膜を介して行われますが、組織に侵入することはありません。男性の尿道では、排尿によって原虫が自然に排除されることもあります。

この原虫はシストを形成せず、接触を通じて感染します。そのため、性感染症として考えられ、性交が感染の主な経路となりますが、必ずしも性行為だけではなく、下着やタオル、便座を介した感染も報告されています。特に日本の気候では、共同浴場での感染リスクも考慮されるべきですが、一般的には低いとされています。

診断・治療

トリコモナス症の診断は、顕微鏡を用いて病原体を直接観察することによって行われます。具体的には、膣から綿棒でサンプルを採取し、スライドグラスに塗布した後、ギムザ染色を施して確認します。男性の場合は、尿沈渣や前立腺分泌物中から動いている原虫を特定します。

治療にはメトロニダゾールといった抗原虫薬が用いられ、内服療法と合わせて膣剤を併用することもあります。性交の相互感染が起こりやすいため、パートナーと同時に治療を行うことが非常に重要です。

疫学・予防

日本国内では、女性の約5～10%および男性の1～2%がトリコモナス症に感染していると推定されています。予防に関する研究は限られていますが、コンドームの使用は感染の拡大を防ぐ一助となる可能性があります。

獣医学におけるトリコモナス症

獣医学の分野では、牛においてはウシ胎仔トリコモナス（Tritrichomonas foetus）が感染を引き起こします。この感染は、自然交配や感染した精液による人工授精を通じて広がります。雌牛では子宮蓄膿症や不妊症、早期の流産が引き起こされる一方、雄牛では通常無症状ですが、軽度の炎症を伴うこともあります。治療法としては、子宮の洗浄および抗原虫剤の投与が行われ、感染した種雄牛は淘汰されることがあります。さらに、鳥類においては、ハトトリコモナス（Trichomonas gallinae）やシチメンチョウトリコモナス（Tetratrichomonas gallinarum）が原因となることもあります。

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