トレニ

トレニ―預言者エレミアの哀歌

『トレニ―預言者エレミアの哀歌』（Threni id est lamentationes Jeremiae Prophetae）は、イーゴリ・ストラヴィンスキーが1958年に作曲したラテン語の宗教曲です。本作は、全体を通じて十二音技法を駆使したストラヴィンスキーの初めての作品であり、この技法が用いられた作品群の中でも特に大規模です。

作品の名称と背景

『トレニ』というタイトルは、旧約聖書の哀歌に由来し、ギリシャ語の名称 Θρῆνοι をラテン語に翻訳したものです。哀歌の内容はウルガタ版聖書からの引用であり、特に第1、3、5章を基にしていますが、5章を除く各章ではヘブライ語の各文字が記載されています。ストラヴィンスキーは、これらのヘブライ文字を取り入れて、独特の効果を生み出しています。

作曲の際には、1957年から1958年にかけて開催されたヴェネツィア・ビエンナーレ現代音楽祭のために作曲されました。この音楽祭の実行委員長であったアレッサンドロ・ピオヴェザンが音楽祭直前に他界したため、彼に献呈されています。作品には、エルンスト・クルシェネクの『預言者エレミアの哀歌』からの影響も伺えます。

初演とその評判

この作品は1958年9月23日に、ヴェネツィアのサン・ロッコ大信徒会にて、ストラヴィンスキー自身の指揮のもと初めて演奏されました。その後、同年11月14日にはフランスでの初演がありましたが、準備不足が影響し、聴衆からは酷評を受けました。この事態にストラヴィンスキーは非常に失望し、以後パリでの指揮を行わないと決意しました。

編成と音楽的特長

『トレニ』は、多彩な楽器の編成を特徴としており、独唱者（ソプラノ、アルト、テノール二人、バス二人）、混声合唱や、フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、トロンボーンなどが含まれています。また、フリューゲルホルンは独特のソロ楽器として重要な役割を果たし、作曲家はジャズアーティストのショーティ・ロジャーズから着想を得てこの楽器を取り入れました。この曲はおおよそ30分の演奏時間がかかります。

曲の構成

作品全体は、三部構成から成っており、中央部分はさらに3つの細部に分かれています。特に中央部分は最も長く複雑です。曲の冒頭では、「預言者エレミアの哀歌が始まる」という内容の歌詞が用いられ、ソプラノとアルトによる二重唱が特徴的です。

第1章では奇数節の部分が合唱によって語られ、歌われる部分はテノール独唱とフリューゲルホルンにより演奏されます。第3章の「Querimonia」はバス独唱から始まり、カノン形式が展開されていきます。

「Sensus Spei」では、複8つに分かれており、曲のクライマックスが形成されます。最後の「Solacium」は三つの部分から成り、合唱によって歌われます。第5章は短いながらも、解説の要素と音楽的要素が融合された印象を残します。

このように、『トレニ―預言者エレミアの哀歌』は、ストラヴィンスキーの音楽的探求と技術が見事に結実した作品であり、彼の音楽キャリアにおける重要な位置を占めています。

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