トロイのブルータス

ブルータス：伝説のブリテン建国者

ブルータスは、中世ブリテンの伝説に登場する人物で、トロイアの英雄アエネアスの伝説的な子孫とされています。彼はブリテン（Britain）の建国者、最初の王、そしてその名の由来として語り継がれています。

起源

ブルータスの伝説は、9世紀の歴史書『ブリトン人の歴史』に初めて登場し、12世紀の年代記作家ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』によって広く知られるようになりました。しかし、古典的な文献にはブルータスに関する記述はなく、歴史的な人物とは考えられていません。

『ブリトン人の歴史』におけるブルータス

『ブリトン人の歴史』では、ブリテン島の名前は、ヒスパニアとブリテンを征服したローマの執政官ブルータスに由来するとされています。また、ブルータスはアエネアスの孫または曾孫であるとされ、ローマ建設以前の物語が展開されます。

アエネアスがトロイア戦争後にイタリアに移住し、その息子アスカニウスがアルバ・ロンガを建設する過程が語られます。アスカニウスの息子シルヴィウス（またはアエネアスの息子）が生まれる際、魔術師は彼がイタリアで最も勇敢で愛される人物になると予言しました。しかし、アスカニウスは怒り、魔術師を処刑してしまいます。その子供、ブルートゥスは、事故によって父親を殺害し、イタリアから追放されます。

放浪の末、ブルータスはガリアでトゥール市を建設し、その後、自身の名にちなんでブリテン島と呼ばれる島に到着し、子孫を増やします。ブルータスの治世は、高僧エリがイスラエルで士師を務め、契約の箱がペリシテ人に奪われた時代と同時期であるとされています。

『ブリタニア列王史』におけるブルータス

ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』では、ブルータスの物語がより詳細に描かれています。ブルータスはアスカニウスの孫であり、彼の父親はシルヴィウスです。魔術師はブルータスが両親を殺すと予言し、その予言通り、ブルータスは事故で父親を殺害し、追放されます。

ブルータスはギリシアを旅し、そこで奴隷にされていたトロイア人の一団を率いることになります。彼はギリシア王パンドラソスから解放と航海のための船と食糧を得て、出航します。無人島でディアナの廃神殿を見つけたブルータスは、女神像の前で眠りに落ち、西の海にある巨人が住む島（ブリテン島）の幻視を見ます。

北アフリカでの冒険やセイレーンとの遭遇を経て、ブルータスはティレニア海で英雄コリネウスに率いられたトロイア人の一団と合流します。ガリアでは、コリネウスがアクィタニア王ゴッファリウス・ピクトゥスとの戦争を引き起こし、ブルータスの甥トゥルヌスが戦死します。トゥルヌスが埋葬された場所に都市トゥールが建設されます。トロイア人たちはガリア人との戦いの後、ブリテン島に向けて出帆し、巨人を打ち破ります。

ブルータスは島に自分の名前をつけ、最初の王となります。コリネウスはコーンウォールの支配者となり、巨人のリーダーであるゴグマゴグはコリネウスとのレスリングで崖から投げ落とされ死亡します。ブルータスはテムズ川の岸に都市トロイア・ノヴァ（新トロイ）を建設し、後にロンドンと呼ばれるようになります。彼は人々のために法律を作り、24年間統治した後、タワー・ヒルの神殿に埋葬されます。ブルータスの死後、ブリテン島は3人の息子、ロクリヌス、カンベル、アルバナクトゥスに分割されます。

遺産

ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』は、後の時代の文学作品に大きな影響を与えました。彼の物語は様々な言語に翻訳、翻案され、「Brut」という語はブリテン史の年代記を意味するようになりました。また、ブルータスがデヴォンのトットネスに上陸したという伝説を記念する「ブルータス・ストーン」がトットネスに残っています。

ブルータスの物語は、歴史的な信憑性は低いものの、中世ブリテンのアイデンティティ形成に大きな役割を果たしたと言えるでしょう。

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