トロロアオイ

トロロアオイ（黄蜀葵）

トロロアオイ（学名: Abelmoschus manihot）は、アオイ科トロロアオイ属に分類される植物です。その花がオクラに似ていることから「花オクラ」とも呼ばれます。原産地は中国で、この植物から採取される粘液は「ネリ」と呼ばれ、和紙の製造や食品、漢方薬の成形など、幅広い用途で利用されています。野生種はインドから東南アジア、オーストラリア北部に分布しており、そこから選抜された栽培系統がトロロアオイとして知られています。

形態

トロロアオイは、高さ1〜2メートルに成長します。葉は掌状に5〜9つに深く裂け、長い柄を持っています。茎には細く硬い棘があります。花期は夏から秋にかけてで、茎の上部にまばらな穂状の花をつけます。花の色は淡黄色から白っぽく、中心に鮮やかな濃紫色の模様が入ります。花は綿の花に似た形状で、5つの花弁を持ち、直径約10センチ[[メートル]]と、オクラの花の約2倍の大きさです。一日花で、朝に咲き夕方にはしぼんでしまいます。花びらが横向きに咲くことから、「側近盞花」とも呼ばれます。雄しべは多数あり、花柱は5本に分かれ、青紫色をしています。

果実は蒴果で、角ばった5つの稜があり、オクラに似ていますが、より太く短く、剛毛が多く硬いため食用には適しません。熟すと褐色に変わり、割れて種子を散布します。種子は黒色の小さな球形で、硬いです。染色体数は2n=60または66です。根は太く長く、根元は紡錘形に肥大し、粘液を多く含んでいます。温暖な地域では多年草として扱われます。

栽培

トロロアオイは、主に製紙用の糊の原料、または観賞用として栽培されます。本来は多年草ですが、栽培上は一年草として扱われることが多いです。温暖な気候を好み、春に種をまき、秋に根を収穫します。適応力が高く、温帯であればどこでも栽培可能ですが、土壌が湿りすぎると品質が低下したり、病気の原因になるため、水はけの良い土壌が求められます。生育中は適度な降雨が必要ですが、収穫期には雨が少ない方が望ましいです。連作には弱いため、数年の輪作が推奨されます。

日本では、広島県、神奈川県、静岡県、埼玉県などで栽培されてきましたが、現在では茨城県が生産量の90%以上を占めており、埼玉県が約6%と続きます。栽培農家の高齢化や後継者不足が問題となっており、和紙業界では将来的な調達に懸念を抱いています。日本の栽培品種には、大熟、チリ、コブなどがありますが、多くは草丈1メートルほどの矮性品種です。

ネリ

トロロアオイの根から抽出される粘液は「ネリ」と呼ばれ、和紙の紙漉きにおいて、コウゾやミツマタなどの植物繊維を均一に分散させるための添加剤として使用されます。根を砕いて水に浸すことで粘性成分である多糖類が抽出され、濾過して不純物を取り除いて使用します。抽出したネリは保存がきかず腐敗しやすいため、気温の低い冬に紙漉きが行われることが多いです。紙漉きの現場でクレゾール臭がすることがありますが、これはトロロアオイを腐敗防止のためにクレゾールなどに浸しているためです。トロロアオイを乾燥させて保存することも可能ですが、粘性が落ちると感じる人もいます。

近年では、機械抄き和紙だけでなく、手漉き和紙でも、ネリの代わりにポリアクリルアミドなどの合成ネリを使用する場所が増えています。中国の手漉き紙である宣紙では、繊維原料にカジノキなどを使用するだけでなく、植物粘液にもトロロアオイではなく、ナシカズラ、楡皮、枇杷根などが使用されています。

食用

インドやジャワでは、トロロアオイの茎や葉の柔らかい部分が野菜として生で食べられます。若い果実もオクラのように食用にすることがあります。日本では、紙漉きのために栽培されるトロロアオイの花を食用とすることがあります。花は花野菜（エディブルフラワー）として家庭菜園などで栽培され、サラダや天ぷら、酢の物などにして食べられます。独特のぬめりがあり美味ですが、一日花のため市場にはほとんど流通しません。花にはフラボノイドが含まれています。

医薬品

トロロアオイの根の外皮を剥がして乾燥させたものは「黄蜀葵根」と呼ばれます。現代では薬用として用いられることは稀ですが、アルテア根の代用として、煎剤を丸薬にする際のつなぎとして使用されることがあります。主な成分はペントサンなどの粘液で、約16%含まれています。

また、根は古くから通和散の原料として使用されており、その薬効成分であるヒドロキシエチルセルロースは、現代では医療用潤滑剤の主成分としても利用されています。これは、アオイ科の植物の中でもトロロアオイ特有の成分であり、オクラなどには含まれていません。

出典

掘田満ほか 編『世界有用植物事典』平凡社、1989年8月25日。ISBN 4-582-11505-5。
草川俊『有用草木博物事典』（東京堂出版）
* 波田善夫. “トロロアオイ”. 『植物雑学事典』. 岡山理科大学生物地球学部. 2012年8月18日閲覧。

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