カジノキ

カジノキ（梶の木）の詳細解説

カジノキ（学名: Broussonetia papyrifera）は、クワ科コウゾ属に分類される落葉性の高木です。別名としてカジやコウとも呼ばれ、その樹皮から採取される繊維は、和紙の重要な原料として古くから利用されてきました。ここでは、カジノキの名称の由来、分布、特徴、用途、そして文化的な側面について詳しく解説します。

名称の由来

和名である「カジノキ」は、コウゾの古い呼び名である「カゾ」が変化したものとされています。中国では「構樹」と呼ばれています。古い時代には、カジノキとヒメコウゾの区別があまり認識されておらず、現在のコウゾはヒメコウゾとカジノキの雑種であると考えられています。19世紀に日本を訪れたシーボルトも、この二種を混同してヨーロッパに報告したため、ヒメコウゾの学名が「Broussonetia kazinoki」となってしまったという経緯があります。

分布と生育環境

カジノキの原産地は特定されていませんが、日本、中国、台湾、ポリネシアに広く分布しています。日本では、中部地方南部以西の本州、四国、九州、沖縄に自生しています。山野に自生するだけでなく、古くから栽培されていたものが野生化したものも多く見られます。また、鳥の糞から発芽した若木もよく見られます。庭や公園などにも植栽され、人々の生活空間にも溶け込んでいます。ポリネシアへは、台湾から植民者と共に渡り、湿潤な火山性土壌に適応し、急速に成長することが知られています。

特徴

カジノキは落葉広葉樹の高木で、樹高は10～12メートル程度まで成長します。樹皮は灰褐色で、黄褐色の皮目があります。若い木には褐色の斑模様が見られ、樹皮は縦に短く裂けて浅い筋が入ります。一年枝にはうぶ毛が多く、またはまばらに生えています。葉は大きく、楕円形から広卵形で、若木では浅く3～5つに裂けます。葉の表面には毛が生えており、触るとざらざらします。葉の形は変異が多く、左右どちらかしか裂けない葉も存在します。葉柄は2～10センチメートルと比較的長いです。

開花時期は5～6月で、雌雄異株です。雄花序は長さ4～8センチメートルの穂状で下垂し、淡緑色をしています。雌花序は直径2センチメートルほどの球状で、紅紫色の花柱が伸びています。果期は9月で、直径2～3センチメートルの集合果は、秋に赤く熟し食用となります。

冬芽は互生し、三角形で毛が多く、暗褐色の2枚の芽鱗に包まれています。冬芽の下にある葉痕はやや大きめの心形や半円形で、維管束痕は多数輪状に並んでいます。葉痕の肩の部分には托葉痕があり、托葉が残っていることもあります。

用途

カジノキは、古代から人々の生活に深く関わってきました。古墳時代には「栲樹（たくのき）」と呼ばれ、樹皮から繊維を取り出し、木綿が作られていました。この繊維が豊富だった豊国（現在の大分県）の「柚富」（ゆふ）という地名は、この栲樹に由来するとされています。

また、カジノキは神木として神社に植えられ、神事の際の供え物の敷物などに使われてきました。樹皮は強靭な繊維を持つため、和紙の原料として、コウゾと同様に用いられてきました。中国の伝統的な紙である画仙紙（宣紙）の原料としても、カジノキが使用されています。

ポリネシアでは、内樹皮から採取した繊維をタパ（tapa）と呼ばれる樹皮布の原料として利用しています。トンガでは、カジノキの樹皮を剥いで水洗いし、表面を削ぎ落として内樹皮だけにし、これを叩いて伸ばし、何枚も重ねて木槌で叩き、大きな布状にします。出来上がった布は、黒や茶色の染料で伝統的な幾何学模様に染め上げられ、ンガトゥ（ngatu）と呼ばれ、婚礼や葬儀の際の貴重な贈答品として、また掛け布や間仕切りとして使われます。

さらに、カジノキは煙にも強いため、中国では工場や鉱山の緑化にも利用されています。葉はブタ、ウシ、ヒツジ、シカなどの家畜の飼料としても利用されています。

文化

カジノキは神道において神聖な樹木の一つと考えられており、諏訪神社などの神紋や日本の家紋である梶紋のモチーフとしても用いられています。また、昔は七夕飾りの短冊の代わりとしても使われていました。これらの例からも、カジノキが文化的な側面においても重要な役割を果たしてきたことがわかります。

カジノキは、その多様な用途と文化的な意義から、人々の生活と深く結びついてきた植物です。和紙の原料としてだけでなく、神事や伝統工芸、そして環境保全にも役立つカジノキは、これからも私たちの生活を支え続けることでしょう。

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